主な業績の研究内容
2009-2010年
Yuka Kawashima*, Nozomi Kuse*, Hiroyuki Gatanaga*, Takuya Naruto, Mamoru Fujiwara, Sachi Dohki, Tomohiro Akahoshi, Katsumi Maenaka, Philip Goulder, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi (* Equal contribution), Long-term control of HIV-1 in hemophiliacs carrying slow-progressing allele HLA-B*5101. J. Virol. 84:7151-7160, 2010
HLA-B*51アリルはエイズ発症遅延との相関が報告されている。しかし、そのメカニズムは未だ解明されていない。そこで我々は1985年以前にHIV-1に感染した日本人の血友病患者を対象としてHLA-B*5101と病態進行の関係を調べた。さらに生体内におけるHLA-B*5101拘束性HIV-1特異的CTLの役割を解析した。
我々は1998年まで無治療の日本人の血友病患者のHLAアリルと病態進行の関係を調べた。解析の結果、HLA-B*5101陽性の血友病患者がHLA-B*5101陰性の患者に比べ病態進行の遅延と有意に相関があることを確認した(p=0.038)。この結果はHLA-B*5101が約25年以上の間、プロテクトアリルとして機能していたことを示した。
これまで、我々はin vitroでHLA-B*5101拘束性Pol283-8特異的CTLとPol743-9特異的CTLが他の特異的CTLに比べHIV-1の増殖を強く抑制することを報告していた。今回、我々はin vivoでのHLA-B*5101拘束性CTLの役割を明らかにするため、無治療のHLA-B*5101陽性の血友病患者10名を対象に4つのエピトープ(Pol283, Pol743, Gag327, Rev71)特異的テトラマーを用いてHLA-B*5101拘束性CD8陽性T細胞の頻度とウイルス量との相関を調べた。Pol283特異的CD8陽性T細胞の頻度とウイルス量には負の相関(p=5.61×10-8)が見られた。一方、他の3つのエピトープ特異的CD8陽性T細胞の頻度とウイルス量には正の相関が見られた。この結果から、Pol283-8特異的CD8陽性T細胞が生体内でHIV-1増殖抑制に重要な役割を果たしていることが示唆された。
さらに、解析に用いたほとんどの患者(7/10)でCTLからの認識を低下させるPol283-8逃避変異体が選択されていることが確認された。一方で約25年以上の間、ウイルス量を低く(VL<1000 copies/ml)維持している長期未発症者(3/10)は、野生型あるいはCTLからの認識に大きな影響を及ぼさないPol283-8V変異体を持っていることが分かった。
今回、我々の研究結果から、HLA-B*5101陽性の血友病患者で約25年以上の間、HIV-1の増殖抑制にPol283特異的CD8陽性T細胞が重要な役割を果たしていたことを明らかにした。また、Pol283-8逃避変異体の出現がCTLのHIV-1増殖抑制の制御を低下させることを示した。一方で、Pol283-8V変異体の選択が長期HIV-1増殖抑制の制御に寄与していることを示唆した。
Hirokazu Koizumi*, Masao Hashimoto*, Mamoru Fujiwara, Hayato Murakoshi, Takayuki Chikata, Mohamed Ali Borghan, Atsuko Hachiya, Yuka Kawashima, Hiroshi Takata, Takamasa Ueno, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi (* Equal contribution), Different in vivo effects of HIV-1 immunodominant epitope-specific CTLs on selection of escape mutant viruses. J. Virol. 84: 5508-5519, 2010
 我々(熊本大学エイズ学研究センターウイルス制御分野・国立国際医療センター)は、「逃避変異体を選択しないHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)は、生体内で抗ウイルス機能という点で逃避変異体を選択するCTLに比較して機能不全に陥っている」こと を明らかにした。
 HIV-1特異的細胞傷害性細胞は、HIV-1感染細胞上のHLAクラスI分子に結合しているHIV-1ウイルス由来のペプチド(エピトープ)を認識し、その細胞を殺すことにより、HIV-1の増殖をコントロールしている。しかし、HIV-1はこれらのT細胞が認識するエピトープ部位を変異させることで逃避すること(CTLによる逃避変異体の選択)が知られているが、どのようなCTLが生体内で逃避変異体を選択するかはまだよくわかっていない。
 今回我々は、日本人慢性HIV-1感染者の解析を行い、逃避変異体を選択するCTLと選択しないCTLの機能の差を比較した。以前に報告されているHLA-A*1101拘束性の4つのエピトープのうち、3つがimmunodominantなエピトープ(1つがGag蛋白由来:Gag349エピトープ、2つがNef蛋白由来: Nef73エピトープとNef84エピトープ)であることを確認した。3つのエピトープのウイルスシークエンスを約130人の日本人慢性HIV-1感染者で解析し、HLA-A*1101を保有する感染者で有意に出現頻度の高い変異をNef84エピトープの9番目の部位に認めた(p<0.0001)。一方、3つのエピトープ特異的CTLの抗ウイルス機能(HIV-1感染細胞認識能、HIV-1複製抑制能)をin vitroで解析したところ、二つのNefエピトープ特異的CTLが高い抗ウイルス機能を示した。in vitroでは同等の抗ウイルス機能を示す二つのCTLが、生体内では一方は逃避変異体を選択し(Nef84特異的CTL)、他方は逃避変異体を選択しない(Nef73特異的CTL)ことから、より生体内に近い実験系(ex vivo)を用いてこれら二つのCTLの機能の解析を行った。まず、二つのエピトープ特異的CTLのProgrammed death (PD)-1分子の発現レベルと、IFN-γの産生能を比較したところ逃避変異体を選択しないCTLの方が逃避変異体を選択しないCTLに比較してPD-1の発現レベルが有意に高く(p=0.0045)、IFNγの産生能も低下していた(p=0.028)。PD-1は、T細胞の活性化に関する負の調節因子であり、ウイルス特異的T細胞においてその高発現はサイトカイン産生能の低下や増殖能の低下と関連づけられている。したがって、逃避変異体を選択しないCTLが逃避変異体を選択するCTLに比較して機能不全に陥っており(PD-1の高発現)、生体内でサイトカイン産生能が低下していることを示している。
 今回の我々の研究結果は、「HIV-1感染者の生体内でCTLが逃避変異体を選択するのにどのように働いているかを解明するには、in vitroの結果を解析するだけでは不十分であり、より生体内に近い形での機能解析が必要である」ことを示唆している。
Nan Zheng, Mamoru Fujiwara, Takamasa Ueno, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Strong ability of Nef-specific CD4+ cytotoxic T cells to suppress HIV-1 replication in HIV-1-infected CD4+ T cells and macrophages, J. Virol. 83: 7668-7677, 2009
HIV-1感染者体内に存在するHIV-1特異的細胞傷害性CD4+T細胞に関する報告は少なく、HIV-1に対するその免疫応答の役割については今だ明らかになっていない。本研究では、HLA-DRB1*0803拘束性の新規エピトープ(Nef187-203)に特異的な細胞傷害性CD4+T細胞を同定した。樹立したNef187-203エピトープに特異的なCD4+T細胞クローンは、Nefタンパクを発現する組換えワクチニアウイルスに感染させた自己B細胞や不活化ウイルス粒子と反応させた自己B細胞の刺激に対して強いIFN-g産生を示した。このことは、このNef187-203エピトープが外来性と内在性の両方のプロセッシング経路を通って細胞表面に提示されることを示唆している。また、Nef187-203特異的CD4+T細胞クローンは、HLA-DRB1*0803陽性のHIV-1感染マクロファージや感染CD4+T細胞を強く傷害しただけでなく、in vitroの試験系において、マクロファージやCD4+T細胞に感染したウイルスの増殖を強力に抑制した。Nef187-203特異的CD4+T細胞は、HLA-DRB1*0803陽性HIV-1感染者のPBMCを解析すると約20%で感染者で認められた。さらに、Nef187-203エピトープペプチドで刺激したPBMCバルクを用いて解析すると、約40%の感染者で認められた。これらの結果から、HIV-1特異的CD4+T細胞はHIV-1のマクロファージやCD4+T細胞に感染したウイルスの増殖を抑制することによって、生体内でHIV-1を直接的に制御し得ることが示唆された。
Center for AIDS Research Best Paper Award 2009
Yuka Kawashima
, Katja Pfafferott, John Frater, Philippa Matthews, Rebecca Payne, Marylyn Addo, Hiroyuki Gatanaga, Mamoru Fujiwara, Atsuko Hachiya, Hirokazu Koizumi, Nozomi Kuse, Shinichi Oka, Anna Duda, Andrew Prendergast, Hayley Crawford, Alasdair Leslie, Zabrina Brumme, Chanson Brumme, Todd Allen, Christian Brander, Richard Kaslow, James Tang, Eric Hunter, Susan Allen, Joseph Mulenga, Songee Branch, Tim Roach, Mina John, Simon Mallal, Anthony Ogwu, Roger Shapiro, Julia G. Prado, Sarah Fidler, Jonathan Weber, Oliver G. Pybus, Paul Klenerman, Thumbi Ndung’u, Rodney Phillips, David Heckerman, P. Richard Harrigan, Bruce D. Walker, Masafumi Takiguchi*, and Philip Goulder* (*Equally contributed), Adaptation of HIV-1 to Human Leukocyte Antigen class I. Nature 485: 641-645, 2009
HIV-1特異的CD8T細胞は、HIV−1感染細胞を認識し、その細胞を殺すことにより、HIV−1の増殖はコントロールしている。一方、HIV−1はこれらのT細胞が認識するエピトープ部位を変異させることで逃避することが知られている。我々はHIVの変異すなわちHIV−1の多様性の獲得に及ぼすHLAクラスI分子の役割、すなわちHIV−1特異的CD8T細胞の役割を明らかにする目的で、世界9か所の異なったコホートでの2800人以上のHIV感染者のHLA抗原とHIV−1のシークエンスを解析した。まず、HLA-B*51拘束性のRT128-135エピトープの解析をしたところ、9か所の異なったコホートで、逃避変異とHLA-B51の間に強い相関を見出した(p=0.0001)。さらに14個の免疫原性が強いエピトープに関して同様の解析をしたところ、逃避変異と拘束性のHLAとの間に強い相関がみられた(p<0.0001)。これらの結果は、HIV-1はHLA抗原に順応するように変異し進化していることを示している。ウイルスが宿主の免疫に順応するように進化していることを考慮したワクチン開発の必要性を、この我々の研究は示唆している。
Takaaki Kondo*, Hiroshi Takata*, Fumichika Matsuki, and Masafumi Takiguchi, Cutting Edge: Phenotypic Characterization and Differentiation of Human CD8+ T cells Producing IL-17, J. Immunol. 182: 1794-1798. 2009
Th17細胞は炎症性サイトカインIL-17 を産生する新たなCD4+T細胞のサブセットとして近年注目されており、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、乾癬、 喘息、などの疾患との関連が報告されている。現在、CD8+T細胞においても一部のサブセットがIL-17を産生することが報告されているが、その分化・成熟の過程や機能など不明な点が多く、未だに明らかになっていない。そこで我々はヒト末梢血におけるIL-17産生CD8+T細胞(Tc17)について様々な分化マーカーを用い詳細な解析を試みた。
ヒトTc17細胞は末梢血CD8+T細胞中において0.4%と非常に少ない集団で産生が認められた。また、Tc17細胞はCD27+CD28+CD45RA- およびCD27-CD28+CD45RA-サブセットに多く認められ、ケモインレセプターCCR6と発現強度の高いCCR5(CCR5high)を高発現していた。次に我々はTc17細胞のサイトカイン産生能を確認したところ、この細胞の多くはIFN-?とIL-17を共に産生する細胞集団であった。次に我々は抗原刺激を受けていないCD27+CD28+CD45RA+の表現形を持つナイーブなCD8+T細胞をフローサイトメーターによってソーティングし、抗CD3, CD28抗体およびIL-1?, IL-6, IL-23, TGF-?を加え培養しTc17の誘導を試みた。その結果、in vitroでナイーブCD8+T細胞から誘導されたTc17細胞においてもCD27-/+CD28+CD45RA-の表現形を持ちCCR5,CCR6を発現することを示した。以上の結果よりヒトTc17細胞は多くのヒトCD8+T細胞とは異なる独自の表現形および分化経路を持つ新たなCD8+T細胞の集団であることが明らかになった。

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