主な業績の研究内容
2011-2012年
Philippa C. Matthews*, Madoka Koyanagi*, Henrik N. Kloverpris*, Mikkel Harndahl, Anette Stryhn, Tomohiro Akahoshi, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Claudia Juarez Molina, Humberto Valenzuela Ponce, Santiago Avila Rios, David Cole, Jonathan Carlson, Rebecca P. Payne, Anthony Ogwu, Alfred Bere, Thumbi Ndung’u, Kamini Gounder, Fabian Chen, Lynn Riddell, Graz Luzzi, Roger Shapiro, Christian Brander, Bruce Walker, Andrew K Sewell, Gustavo Reyes Teran, David Heckerman, Eric Hunter, Soren Buus, Masafumi Takiguchi, and Philip J. R. Goulder (*Equal contribution), Differential clade-specific HLA-B*3501 association with HIV-1 disease outcome is linked to immunogenicity of a single Gag epitope. J. Virol. 86:12643-12654, 2012
 日本のHIV-1サブタイプB感染コホートにおいてHLA-B*35:01陽性感染者は、他のHLAを持つ感染者に比較し、有意にウイルス量が高い。一方、南アフリカで感染が蔓延しているサブタイプ C感染においては、サブタイプB感染とは異なり、B*35:01陽性HIV-1慢性感染者群はB*35:01陰性慢性感染者群とのウイルス量に差異はみられない。そこで、Oxford大学のDr.Goulderらと共同研究を行い、サブタイプB感染者ではサブタイプC感染者に比較しHIV感染制御に重要な役割を果たす有益な細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導されていないのではないかという仮説を立て、B*35:01陽性無治療HIV-1 サブタイプ C慢性感染者 42人、日本人30人を含むB*35:01陽性無治療サブタイプ B慢性感染者72人のPBMCを用いて13種類(Nef 2, Gag 2, Pol 5, Rev 1,Env 3種類)のB*35:01拘束性エピトープに対するex vivoのCTL応答をIFN-γ ELISPOT assayにより検出した。
 その結果、Gag p24 NY10エピトープに関して、約40%のサブタイプ C感染者が反応を示したのに対し、サブタイプ B感染は約3%に限られ(p=4x10-5)、サブタイプ C感染ではこのエピトープに対する反応と低いウイルス量に相関がみられた(p=0.03)。NY10エピトープのアミノ酸配列を比較するとサブタイプ Bウイルスでは8番目のアミノ酸がグルタミン酸(NY10-8E)、サブタイプ Cウイルスではアスパラギン酸(NY10-8D)という違いがあり、HLA-B*35:01陽性感染者ではグルタミン酸への変異が蓄積していることが分かった。NY10-8EペプチドおよびNY10-8Eウイルス感染細胞に対するNY10特異的CTLの反応はNY10-8DペプチドおよびNY10-8Dウイルス感染細胞に対する反応に比較し弱く、その原因として、MHCとペプチドの結合能力がNY10-8Dに比較し、NY10-8Eでは低下していることが考えられた。
 以上の結果から、サブタイプC感染ではNY10エピトープ特異的CTLがHIV-1増殖抑制に重要な役割を果たしており、サブタイプ B感染ではNY10エピトープに対する反応がなく、ウイルス量を制御するCTL反応が少ないことが予後の悪い原因の一つであることが示された。
Yoshinori Sato, Sayaka Nagata, and Masafumi Takiguchi, Effective elicitation of human effector CD8+ T cells in HLA-B*51:01 transgenic humanized mice after infection with HIV-1. PLoS ONE 7: e42776, 2012
 ヒトの免疫細胞をマウス内に再構築したヒト免疫構築マウス(ヒト化マウス)は、ヒトを感染宿主とするウイルスの病原性やヒト免疫応答をin vivoで解析できるマウスモデルとなることが期待されている。しかし、ヒト臍帯血由来CD34+細胞のみを高度免疫不全マウスへ移植したヒト化マウスモデルは、ヒトT細胞の教育に必要なHLAを持たないため、ウイルス感染細胞の排除に重要な役割を持つヒトエフェクターCD8+T細胞がヒト化マウス内で誘導されないことを我々は以前の研究で明らかにしている。
 そこで我々は、HLA-B51遺伝子を導入した高度免疫不全マウスであるHLA-B*51:01トランスジェニックNOD/SCID/Jak3-/-(NOK/B51Tg)マウスにヒトCD34+細胞を移植したヒト化NOK/B51Tg(hNOK/B51Tg)マウスを作成し、HIV-1感染に対してhNOK/B51Tgマウス内でヒトエフェクターCD8+T細胞が誘導されるかについて詳細に解析した。非感染hNOK/B51Tgマウス群および非感染hNOKマウス群の間では、late effector memoryおよびeffector CD8+T細胞サブセット (CD27lowCD28-CD45RA+/-CCR7- and CD27-CD28-CD45RA+/-CCR7-)の割合に有意な差は見られず、エフェクター機能をもつT細胞の指標となるCX3CR1/CXCR1を発現しているヒトCD8+T細胞の割合も有意な差は見られなかった。HIV-1感染hNOK/B51Tgマウス群では、late effector memoryおよびeffector CD8+ T細胞とCX3CR1/CXCR1を発現しているヒトCD8+T細胞の割合が非感染hNOK/B51Tgマウス郡に比べ有意に高くなった。一方、HIV-1感染hNOKマウス群と非感染hNOKマウス群の間では、それらの割合に有意な差は見られなかった。これらの結果から、hNOK/B51TgマウスのヒトCD8+T細胞は、HIV-1感染によってエフェクターT細胞に分化する能力を持つことが示唆された。
 本研究は、HIV感染に対するヒト免疫応答をhNOK/B51Tgマウスを用いて解析できる可能性を示し、さらに改良を重ねHIV研究に用いることで、今後のHIV-1感染症への理解が飛躍的に進展すると期待できる。
Takuya Naruto*, Hiroyuki Gatanaga*, George Nelson, Keiko Sakai, Mary Carrington, Shinichi Oka*, and Masafumi Takiguchi* (*Equal contribution), HLA class I-mediated control of HIV-1 in the Japanese population, in which the protective HLA-B*57 and HLA-B*27 alleles are absent. J. Virol. 86:10870-10872, 2012
 HLA-B*57ならびにHLA-B*27は、白人やアフリカ人のHIV-1感染者におけるエイズ進行遅延と強く関係していることがよく知られている。しかしながら、これらのHLAはアジア人ではほとんど見られないため、アジアのHIV-1感染者においてエイズ進行遅延と関係しているHLAは明らかとなっていない。そこで我々は、日本人HIV-1感染者においてエイズ進行遅延と関係しているHLAを明らかにするため、504人の無治療慢性日本人HIV-1感染者におけるHLAクラスI分子とエイズ進行の関係について調査した。その結果、HLA-B*67:01ならびにHLA-B*52:01-Cw*12:02ハプロタイプが、低いHIV-1ウイルス量および高いCD4T細胞数と有意に相関していることが示された。したがって、これらのHLAは、慢性日本人HIV-1感染者においてエイズ進行遅延と強く関連していることが明らかとなった。HLA-B*67:01ならびにHLA-B*52:01-Cw*12:02ハプロタイプは、アジア特有のHLAであることから、アジアのHIV-1感染者に見られるHIV-1増殖抑制に関与するCTLは、白人やアフリカ人に見られるものとは全く異なることが推察された。
Masao Hashimoto, Tomohiro Akahoshi, Hayato Murakoshi, Naoki Ishizuka, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, CTL recognition of HIV-1-infected cells via cross-recognition of multiple overlapping peptides from a single 11-mer Pol sequence. Eur. J. Immunol. 42:2621-2631, 2012
 HIV-1の抗原部位によっては、長さは異なるがアミノ酸の配列がオーバーラップした複数のペプチドが感染細胞上のHLAクラスI分子に提示され、それらをHIV-1特異的細胞傷害性CD8陽性T細胞(CTL)が認識することが知られていたが、そうしたオーバーラップする抗原ペプチドをCTLがどのように認識しているかについてはよくわかっていなかった。
 今回我々は、Pol155-165の配列においてアミノ酸配列がオーバーラップする8-merから11-merの4つのペプチドを用いて、HLA-B*54:01拘束性HIV-1特異的CTLがこれらのペプチドをどのように認識しているかについて解析した。HLA-B*54:01を保有する14人のHIV-1感染者由来のPBMCを用いた解析では、9-merのペプチドが最も高頻度に強いT細胞応答を誘導した。4つのペプチドに対するT細胞応答のパターンは多様で個々の感染者で異なっており、9-merのペプチドに対してだけでなく10-merや11-merのペプチドにも応答を示す感染者がいることがわかった。ついで、これらの感染者からCTLクローンを樹立して4つのペプチド特異的テトラマーの認識能を解析したところ、9-merと10-mer、10-merと11-merのペプチド特異的テトラマーを認識するCTLクローンが存在することがわかった。さらにCTLクローンのHIV-1感染細胞に対する細胞傷害活性を解析したところいずれのCTLクローンも感染細胞をよく認識して殺傷した。
 これらの結果からHLA-B*54:01陽性HIV-1感染者の生体内では、Pol155-165配列由来の4つのペプチドのうち9-merのペプチドが最も優位にHLA-B*54:01分子に提示されており、10-mer(あるいは11-mer)のペプチドも提示されていることが示唆された。また、CTLはオーバーラップするペプチドに対して交差反応性を示すことによって効果的にHIV-1感染細胞を認識していることが明らかになった。
Hiroshi Takata, Takuya Naruto, and Masafumi Takiguchi, Functional heterogeneity of human effector CD8+ T cells. Blood. 119:1390-8, 2012
ヒトエフェクターCD8+ T細胞の機能的多様性

 HIV特異的CD8+ T細胞は生体内でのウイルス制御において重要な役割を果たしていることが示されてきた。しかし、最も強力なウイルス感染細胞除去能力をもつエフェクターCD8+ T細胞がHIV特異的CD8+ T細胞集団中にはほとんど存在しないことが知られている。このことは、HIV特異的CD8+ T細胞のエフェクター細胞への分化・成熟過程に問題があることを示唆している。そこで我々はまず健常人においてどのような機能的エフェクターCD8+ T細胞が分化・成熟しているのか詳細に解析を行った。
 これまでエフェクターCD8+ T細胞は細胞傷害活性とIFN-?やTNF-?などのエフェクターサイトカインの産生能をもつ最終分化した細胞であると考えられてきた。我々は以前、ヒトエフェクターCD8+ T細胞サブセットに炎症・感染局所への遊走能をもちうるCXCR1+細胞とそれを持えないCXCR1-細胞が存在することを報告した。本論文ではこのエフェクターCD8+ T細胞サブセット中のCXCR1+細胞とCXCR1-細胞の機能的な違いについて解析を行った。いずれの細胞集団も高いエフェクターサイトカイン産生能と強力な細胞傷害活性を有していたが、CXCR1-細胞のみIL-2産生能と自己増殖能、そして活性化後の細胞死に対してより高い耐性を示した。これらの機能的な差異は、CXCR1-細胞におけるCAMK4、SPRY2 、IL-7Rの特異的な発現増加と、CXCR1+細胞における細胞死誘導性のDAPK1の発現増加によって生じていることが考えられた。また、IL-2産生能をもつエフェクターCD8+ T細胞はCXCR1-細胞集団において、IL-7R-細胞と比較してIL-7R+細胞により高頻度に検出された。さらに、IL-7の結合によって誘導されるIL-7R下流のシグナルは、CXCR1-細胞の生存のみを促進した。本研究は、IL-2産生能を持つ新たなエフェクターCD8+ T細胞の存在を明らかにし、この細胞集団がエフェクターCD8+ T細胞集団の恒常性の維持において重要な役割を果たしていることを示唆するものである。
Tomohiro Akahoshi, Takayuki Chikata, Yoshiko Tamura, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Selection and accumulation of an HIV-1 escape mutant by three types of HIV-1-specific CTLs recognizing wild-type and/or escape mutant epitopes. J. Virol. 86:1971-1981, 2012 
 私たちはこれまでに、HIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が認識するエピトープを同定するとともに、HIV-1がそれらエピトープ特異的CTLの免疫圧から逃避する機序を明らかにしてきた。HIV-1は、CTLが認識するエピトープ内やその近傍に変異を獲得することで、ペプチドがHLAと結合後、感染細胞表面上に提示され、CTLによって認識されるまでの種々の過程に影響を及ぼし、CTLの免疫圧から逃避している。その一方で、そのようなHIV-1逃避変異体を認識するCTLがHIV-1感染者において誘導されていることが知られている。例えば、野生型と変異型エピトープの両方を認識する交差反応性CTLや変異型エピトープのみを特異的に認識する変異型特異的CTLである。しかしながら、これらCTLがHIV-1の増殖制御に寄与しているかどうかについては十分に調べられていない。
 私たちはこの課題に取り組むために、感染初期から慢性期にかけて経過観察できた12人のHLA-A*24:02陽性HIV-1感染者を対象に、HLA-A*24:02に提示されるGag28-36(KYKLKHIVW)エピトープおよび/もしくはその逃避変異型エピトープ(KYRLKHIVW)を認識するCTLの抗ウイルス機能を解析した。
 感染初期の血漿中ウイルスのエピトープシークエンス解析から、4人が野生型(WT)ウイルスに、8人がエピトープの3番目にRを有する変異型(3R)ウイルスに感染したことが考えられた。感染慢性期では、WTウイルス感染者4人中3人で3R変異が選択され、3Rウイルス感染者ではシークエンスに変化はなかった。WTウイルス感染者の感染初期および/もしくは慢性期では、WT特異的CTLおよび/もしくはWTと3Rエピトープを認識する交差反応性CTLが誘導された。それらCTLはWTウイルスの増殖を抑制したが、3Rウイルスの増殖を抑制できなかった。一方、3Rウイルス感染者の感染初期および/もしくは慢性期では、3R特異的CTLもしくは交差反応性CTLが誘導された。しかし、それらCTLは両ウイルスの増殖を抑制できなかった。これらの結果から、WTウイルス感染者で誘導されているWT特異的CTLと交差反応性CTLは、WTウイルスの増殖制御に寄与しているのに対し、3Rウイルス感染者で誘導されている3R特異的CTLと交差反応性CTLは、両ウイルスの増殖制御に寄与していないことが考えられた。
 私たちはまた、この3R変異が、近年HIV-1慢性感染と診断された日本人において高度に蓄積していることを見出した(HLA-A*24:02陽性者で88.6%、陰性者で74.7%)。さらに、3Rウイルスの増殖能はWTウイルスと同等であった。これらの結果をまとめると、日本人HIV-1慢性感染者における3R変異の蓄積は、エピトープ特異的CTLによる3Rウイルスの選択に加え、3R変異がウイルス増殖能に影響しないこと、およびHLA-A*24:02が日本人に高分布であることの結果であると考えられた。
本研究は、HIV-1逃避変異体を認識するCTLのHIV-1の増殖制御における役割およびHIV-1感染者集団における逃避変異体の高蓄積の機序を明らかにした。
Kazutaka Honda, Nan Zheng, Hayato Murakoshi, Masao Hashimoto, Keiko Sakai, Mohamed Ali Borghan, Takayuki Chikata, Madoka Koyanagi, Yoshiko Tamura, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Selection of escape mutant by HLA-C-restricted HIV-1 Pol-specific cytotoxic T lymphocytes carrying strong ability to suppress HIV-1 replication. Eur. J. Immunol. 41:97-106, 2011
 細胞傷害性T細胞(CTL)からのHIV-1逃避機序の一つとしてHIV-1の逃避変異が考えられている。これまでHLA-A,B抗原拘束性CTLによる逃避変異の選択についての研究は行われているが、HLA-C抗原拘束性CTLによる逃避変異の選択の詳細は明らかにされていない。そこで、我々はHLA-C抗原の中で、日本人において最も高頻度のHLA-A,B,C, DRの4座位ハプロタイプ(HLA-A*2402-HLA-B*5201- HLA-Cw*1202-HLA-DR*1502)を形成するHLA-Cw*1202に着目し、HLA-Cw*1202拘束性HIV-1特異的CTLが免疫学的逃避変異を選択できるのかを詳細に調べた。
 Nef, Gag, Pol領域をカバーする17-mer, 11-merのオーバーラップペプチドを用いて新規HLA-Cw*1202拘束性HIV-1特異的CTLエピトープの同定を試みた。同定後、これらの新規エピトープ特異的CD8+ T細胞の頻度をElispot assayにより調べた。さらに、HIV-1慢性感染者のエピトープ領域のシークエンス解析を行い、HLA-Cw*1202に関連する逃避変異の推定を行った。シークエンス解析後、変異ウイルスを作成し、変異ウイルスを感染させた標的細胞に対するHLA-Cw*1202拘束性CTLクローンのCTL活性およびHIV-1増殖抑制能を測定した。
 2種の新規HLA-Cw*1202拘束性HIV-1Pol特異的CTLエピトープ(Pol328-9, Pol463-10)を同定した。これらの新規エピトープ特異的CTLはin vitroの実験において高いHIV-1増殖抑制能を示した。シークエンス解析の結果、Pol463-10において9番目のアミノ酸がバリンからアラニンという変異(V9A)が、HLA-Cw*1202保持者に高頻度に見られた。さらにシークエンスの長期的解析により、経時的な変異の出現を確認した。変異ウイルスを感染させたHLA-Cw*1202陽性細胞に対するPol463-10特異的CTLクローンのCTL活性およびHIV-1増殖抑制能は、野生型HIV-1感染細胞に対するものと比べて著しく低下していた。これらの結果より、新規HLA-Cw*1202拘束性エピトープ特異的CTLは、これまでの研究で高い増殖抑制能を有するHLA-A,B抗原拘束性CTLと比較して同等の高いHIV-1増殖抑制能を有していることが分かった。さらにPol 463-10特異的CTLは高いHIV-1増殖抑制能を持ち、これによりV9A逃避変異体をHIV-1感染者体内で選択していると示唆される。 本研究により、我々はHLA-C抗原拘束性CTLもHLA-A, B抗原拘束性CTLと同様に高いウイルス増殖抑制能を有し、逃避変異を選択するものがあることを証明した。


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