主な業績の研究内容
2013-2014年
Nozomi Kuse, Tomohiro Akahoshi, Hiroyuki Gatanaga, Takamasa Ueno, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Selection of TI8-8V Mutant Associated with Long-Term Control of HIV-1 by Cross-Reactive HLA-B*51:01-restricted Cytotoxic T Cells, J. Immunol. 193:4814-4822, 2014
 HIV-1に感染したにもかかわらず30年以上もウイルス量が低く維持され、エイズを発症していないHLA-B*51:01陽性の血友病患者の長期未発症者は全員がPol283-8 (TI8)エピトープの8番目の位置に8V変異を持っていた。一方で、その他のHIV-1に感染したHLA-B*51:01陽性の血友病患者のほとんどが8T変異を持っていた。これらのことから8V変異の選択がHIV-1の長期的な制御に重要であることが示唆された。しかしながら、長期未発症者における、8V変異の選択機構と長期的なHIV制御機構は不明であった。そこで我々はこれらの機構について調べることにした。
 長期未発症から樹立したTI8特異的CTLは野生型も8V変異ペプチドも同様に認識することでき、野生型も8V変異体ウイルスも強く抑制することができた。しかしながら、野生型と8Vウイルスを同時に感染させた細胞とCTLを共培養することによって、野生型を持った患者から樹立したCTLは8Vと野生型ウイルスに対する認識能が異なることが明らかになった。一方で、8V変異体を持っている患者から樹立されたCTLは8Vを野生型ウイルスと同じように認識することできた。野生型と8Vウイルスに対する認識能が異なるCTLはHLA-B*51:01-8Vペプチド複合体に対する結合能がHLA-B*51:01-野生型ペプチド複合体に対する結合能より弱いTCRを持っていた。一方で、8Vと野生型ウイルスを同様に認識するCTLはどちらのHLA-ペプチド複合体に対しても同様の結合能を示すTCRを持っていた。さらにTCR欠損細胞にこれらのCTLのTCRを再構築することによって、2つのTCRは野生型と8V変異に対する認識能が異なっていることを確かめることができた。
 本研究によって、8V変異は、8V変異と野生型に対する認識能が異なるTCRを持ったcross-reactiveなCTLによって選択されることが示された。8V変異の選択と認識能の異なる2つのcross-reactiveなCTLは長期間に渡るHIV-1の制御に寄与しているのかもしれないということが示唆された。
Center for AIDS Research Best Paper Award 2014
Takayuki Chikata
, Jonathan M. Carlson, Yoshiko Tamura, Mohamed Ali Borghan, Takuya Naruto, Masao Hashimoto, Hayato Murakoshi, Anh Q. Le, Simon Mallal, Mina John, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Zabrina L. Brumme, and Masafumi Takiguchi, Host-specific adaptation of HIV-1 subtype B in the Japanese population, J.Virol. 88:4764-4775, 2014
 ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV-1)がCD4陽性T細胞に感染すると、HIV-1のタンパク質は数アミノ酸残基のペプチド(エピトープ)に分解され、ヒト白血球抗原クラスI (HLA class I)により細胞表面へと提示される。この複合体をHIV-1特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)が認識し、HIV-1感染細胞を排除しようとする。しかし、HIV-1は高頻度にアミノ酸変異を起こすウイルスとして知られており、逃避変異HIV-1の出現によって、ヒトの免疫から逃れてしまう。それらのアミノ酸変異は、感染者のHLA class I対立遺伝子型(HLA型)に関連することが知られているが、特に集団内で保有頻度の高いHLA型に適応したアミノ酸変異を持つHIV-1が集団内に広まっていることが明らかとなっている。
 これまでいくつかの研究グループが、HLA関連アミノ酸変異(HLA-associated polymorphism:HLA-AP)の同定を試みているが、HLA型は地域や人種といった集団間の多様性が大きいため、個々の集団で蓄積される変異は異なることが示唆される。しかしながら、アジア人の集団では未だ大規模に解析されたことがなく、白人集団との比較研究も行われていない。そこで、本研究では日本人におけるHLA-APを網羅的に解析し、さらに同一のサブタイプウイルスが流行している白人集団により選択されるHLA-APとの比較解析を試みることで、HIV-1が個々の集団に対してどの程度適応・進化しているかを明らかにすることを目的とした。
 我々はまず、無治療の日本人HIV-1サブタイプB慢性感染者430名を対象として、HIV-1のGag、Pol、Nef領域の遺伝子配列を決定した。その結果、Gag、Pol、Nef遺伝子領域に、それぞれ合計284個(q<0.05)のHLA-APを同定することができた。続いて、各遺伝子上のHLA-associated substitutions(HLA-AP同定より明らかとなったアミノ酸変異)の合計数とCD4陽性細胞数もしくはウイルス量との相関関係をSpearman’s correlation testによって検定しところ、相関関係は弱いが感染者のウイルス量はPolにおけるHLA-ASの出現数と有意に逆相関し(p = 0.04)、特にHLA-B*52:01関連HLA-ASとより有意に強く逆相関(p = 0.0007)していることが明らかとなった。一方で、HLAサブタイプ間のHLA-APをphylogenetically-corrected interaction testによって比較したところ、ペプチド結合部位の外側にアミノ酸の違いのあるHLA-C*03およびC*14のサブタイプに関連するHLA-APが、全く異なる位置に同定され、C*03では9箇所のうち3箇所、C*14では14箇所中のうち5箇所で、HLA-APの選択の強さに統計学的に有意な差がみられた。最後に、本コホートで同定されたHLA-APがIHACコホートでも同定されているかを調べた結果、188個(66.2%)のHLA-APがIHACでは同定されていなかった。さらに共通して分布するHLA型に絞り、phylogenetically-corrected interaction testによって比較解析をした結果、71個のHLA-APが両コホート間で選択される強さに明確な差があることが明らかとなった。
 本研究により、予想以上に日本人と白人との間でHLA-APの相違が大きいことが明らかとなり、HLA class I型の多様性の違いによる特異的進化以外にHLA型以外の何らかの因子がHIV-1の進化に関与している可能性を示した。また、本研究のような網羅的なHLA-APの解析を各コホートで行うことで、それぞれのコホートのHIV-1の進化の方向性を予測することが可能となり、HIV-1ワクチン開発のための有用な情報を与えることができると期待される。
Chihiro Motozono*, Nozomi Kuse*, Xiaoming Sun, Pierre J. Rizkallah, Anna Fuller, Shinichi Oka, David K. Cole, Andrew K. Sewell,and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Molecular basis of a dominant T-cell response to an HIV reverse transcriptase 8-mer epitope presented by the protective allele HLA-B*51:01, J. Immunol. 192:3428-3434, 2014
 細胞傷害性T細胞(CTL)は、T細胞受容体(TCR)を介して、HLAクラスI分子に提示された8〜13個のアミノ酸からなる自己および非自己のペプチドを識別することで、ウイルスなどの病原体に対する生体防御に重要な役割を果たしている。HIV感染症においても、HIV特異的CTLはHIVの感染制御に重要な要因の一つであることが明らかにされてきた。実際にAIDS病態発症遅延と相関するHLAアリルであるHLA-B*57、HLA-B*27を有するHIV感染者では、同一のTCR遺伝子型を有する機能的なCTLが複数の異なるHIV感染者で認められており、それらがHIVの感染制御に寄与していることが最近明らかになってきた。
 HLA-B*51:01に関する我々の以前の研究より、HLA-B*51:01拘束性でHIV-RT128-135 由来のTAFTIPSI (TI8)特異的CTL応答がHIVの感染制御に重要な役割を果たしており(Kawashima et al Nature 2009)、さらに、TI8特異的CTLはHIV感染細胞に対して高い抗ウイルス活性を有することを明らかにした (Kawashima et al JV 2010)。しかしながら、HIVの感染制御に寄与するHLA-B*51:01拘束性TI8特異的CTL応答の分子メカニズムは依然として不明であった。
 我々は、まず7人のHLA-B*51:01陽性HIV感染者からTI8特異的CTLクローンを樹立し、TCRの遺伝子配列について解析を行った。その結果、6人の感染者から樹立したTI8特異的CTLクローンにおいて、TCRα鎖にTRAV17、TCRβ鎖にTRBV7-3を有するTRAV17/TRBV7-3 TCRを共通して有していた。HIV感染者の末梢血を用いたEx vivo解析においても、TRAV17/TRBV7-3 TCRを持つCTLが検出された。このことから、TRAV17/TRBV7-3 TCRを有するTI8特異的CTLが複数のHLA-B*51:01陽性HIV感染者の生体内で有意に選択されていることが明らかになった。
 次に、TRAV17/TRBV7-3 TCRならびにHLA-B*51:01/TI8複合体 (B51-TI8)の可溶性蛋白質を調製し、表面プラズモン共鳴によりTCR-ペプチド・HLA複合体 (TCR-pHLA)の 相互作用について調べた。通常、ウイルス特異的TCRのTCR-pHLA相互作用の解離定数は1-10μMであることが知られているが、予想に反して、TRAV17/TRBV7-3 TCRとB51-TI8の相互作用は非常に弱く、その解離定数は81.8μMであった。
 さらにTCR-pHLA相互作用の詳細な分子メカニズムを解析するため、TCR-pHLA結晶構造解析を行った。HLA-B*51:01に提示されたTI8ペプチドは構造的な特徴が少なく、そのためTRAV17/TRBV7-3 TCR はCDR1ならびにCDR2によって主にHLA-B*51:01と結合していた。さらに、TRAV17 TCR α鎖のCDR3αで高く保存されていた97番目のアルギニンがTI8ペプチドならびにHLA-B*51:01との結合に重要な役割を果たしていた。このようなTCR-pHLA相互作用の構造的特徴を通じて、TRAV17/TRBV7-3 TCRを有する機能的なCTLがHLA-B*51:01陽性HIV感染者生体内で有意に選択されていることが本研究により明らかになった。
 さらに興味深い点として、今回明らかにしたTRAV17/TRBV7-3 TCR とB51-TI8の結晶構造は、HLA-B*51:01ならびに8-merの抗原ペプチドでは世界で初めてのTCR-pHLA結晶構造であり、8-merのような短いペプチドは、長いペプチドに比べて、特徴的な構造が少なく、HLAクラス II分子/ペプチド複合体の構造に類似していた。HLAクラスII拘束性のTCRが弱いTCR-pHLA相互作用を示すように、 TRAV17/TRBV7-3 TCRのB51-TI8に対する弱い結合は、このような構造的特徴の少ない抗原に対するTCR-pHLA相互作用の特性である可能性が示唆された。
Center for AIDS Research Best Paper Award 2013
Kristin Ladell*, Masao Hashimoto*, Maria Candela Iglesias*, Pascal G. Wilmann*, James E. McLaren, Stephanie Gras, Takayuki Chikata, Nozomi Kuse, Solene Fastenackels, Emma Gostick, John S. Bridgeman, Vanessa Venturi, Zaina Ait Arkoub, Henri Agut, David J. van Bockel, Jorge R. Almeida, Daniel C. Douek, Laurence Meyer, Alain Venet, Masafumi Takiguchi**, Jamie Rossjohn**, David A. Price** and Victor Appay** (*,** Equal contribution), A molecular basis for the control of preimmune escape variants by HIV-specific CD8+ T cells. Immunity. 38:425-436, 2013
 HIVの病態進行はHLA-B*27:05のような特定のHLAクラスIを保有する感染者で遅いことが知られているが、そうしたHIV感染者での免疫応答がどのように維持されているかについての分子レベルでの機序は解明されていなかった。今回、我々滝口プロジェクト研究室を含むフランス、英国、オーストラリアの4か国の研究グループが、HLA-B*27:05を保有する感染者の細胞性免疫を解析しその一端を明らかにした。
 HLA-B*27:05保有HIV感染者では、Ga263-272由来のKRWIILGLNKというペプチド(KK10)がHIV特異的CTLの主要な標的エピトープとなるが、感染後早期にKK10の6番目のアミノ酸がLからMに変異した変異型ウイルス(LM)が出現する。通常はこの変異の出現に生体内のウイルス量の増幅は伴わないことから、免疫応答がどのようにLMの複製を抑制しているかを解析した。まず、野生型KK10ペプチド(WT-KK10)あるいはLM-KK10ペプチド(LM-KK10)に特異的に結合するテトラマーを用いて、感染初期から経時的にHLA-B*27:05保有HIV感染者の末梢血をex vivoで解析したところ、感染初期にはWT-KK10特異的CTLが高頻度で認められ、その後でWT-KK10とLM-KK10を同等に高感度で認識するCTLが誘導されていた。LM-KK10に交差反応性を示すCTLはWT-KK10特異的CTLと異なったTCR(TRBV6-5/TRBJ1-1など)を持っていた。TRBV6-5/TRBJ1-1のTCRを持つCTLクローン(C12C)のWTあるいはLM感染細胞の認識能を調べたところ、C12CはWT感染細胞とLM感染細胞を両方とも高感度に同等に認識した。さらに、C12CのTCRとWT-KK10/LM-KK10-HLA-B*27:05分子複合体の結晶構造の解析では、C12CのTCRはWT-KK10-、LM-KK10-HLA-B*27:05複合体に対してほぼ同様の結合様式を示した。最後に、in vitroの系を用いてWT-KK10特異的CTLクローンとLMに交差反応性を示すC12Cの変異型ウイルスの選択能について比較したところ、前者はWTに対してLMを選択し、後者はWTとLMの両方のウイルス複製を抑制するが、WTに対してLMを選択することはなかった。その一方で、感染後期に生体内で出現するさらなる変異型ウイルス(KK10の2番目のアミノ酸がRからKに変異:RK+LM)はC12Cのみによって選択された。
 これらの結果からHLA-B*27:05陽性HIV感染者では、1)感染初期はWT-KK10特異的CTLがウイルス複製を抑制する、2)WT-KK10特異的CTLが変異型ウイルス(LM)を選択すると、WTとLM感染細胞を同等に認識する新たなTCRを持ったCTLが誘導され、それらがLMの複製を抑制する、3)その結果、HIVはHLAクラスIの抗原提示に関わる部位の変異(RK+LM)を獲得してLMに交差反応性を示すCTLの認識からも逃避する、ことが示唆された。すなわち、早期に出現する変異型ウイルスに対して交差反応性を示すCTLが、最終的に出現する免疫逃避変異型ウイルス(RK+LM)が選択されるまで病態の進行を制御するように働いていることが分子レベルで明らかになった。
Yuichi Yagita*, Nozomi Kuse*, Kimiko Kuroki*, Hiroyuki Gatanaga, Jonathan M. Carlson, Takayuki Chikata, Zabrina L. Brumme, Hayato Murakoshi, Tomohiro Akahoshi, Nico Pfeifer, Simon Mallal, Mina John, Toyoyuki Ose, Haruki Matsubara, Ryo Kanda, Yuko Fukunaga, Kazutaka Honda, Yuka Kawashima, Yasuo Ariumi, Shinichi Oka, Katsumi Maenaka, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Distinct HIV-1 Escape Patterns Selected by Cytotoxic T Cells with Identical Epitope Specificity, J. Virol. 87:2253-2263, 2013
 HLA-B*51:01拘束性Pol238-8特異的CTLは長期的なHIV-1増殖抑制に重要な役割を果たしている。一方で、このようなCTLによってReverse Transcriptase (RT)135番目のアミノ酸に逃避変異(I135X)が選択される。今回、我々はI 135X変異体がHLA-B*51:01だけでなくHLA-B*52:01拘束性Pol283-8特異的CTLによっても選択されていることを明らかにした。またHLA-B*52:01拘束性Pol283-8特異的CTLがHIV-1感染慢性患者で優位に誘導されていることが分かった。HLA-B*52:01拘束性Pol283-8特異的CTL はHLA-B*51:01拘束性Pol283-8特異的CTLと比較すると弱いが、野生型HIV-1の増殖を強く抑制することができた。またHLA-B*52:01-Pol283-8ペプチド複合体の結晶構造解析によってPol283-8エピトープがHLA-B51:01とHLA-B52:01のどちらにも提示されることを確かめることができた。さらに日本とコケージャンにおける解析では、どちらのコホートにおいてもHLA-B*51:01はI135T変異に強い相関があり、HLA-B*52:01はいくつかのI135X変異と比較的弱い相関があることを明らかにした。In vitroのウイルス増殖抑制試験では、HLA-B52:01拘束性Pol283-8特異的CTLがこれらのI135X変異体ウイルスを増殖抑制できないことを明らかとした。これらの結果からHLA-B51:01とHLA-B*52:01の間において選択されるI135X変異体のアミノ酸が異なっているのは、2つのHLA拘束性CTLのHIV-1増殖抑制能の強さの違いによるものではないかと示唆された。


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