主な業績の研究内容

2019-2020年

Best Paper Award 2020 for Joint Research Center for Human Retrovirus Infection (Kumamoto Campus)
Tomohiro Akahoshi
, Hiroyuki Gatanaga, Nozomi Kuse, Takayuki Chikata, Madoka Koyanagi, Naoki Ishizuka, Chanson J. Brumme, Hayato Murakoshi, Zabrina L. Brumme, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, T-cell responses to sequentially emerging viral escape mutants shape long-term HIV-1 population dynamics, PLoS Pathog. 16(12): e1009177, 2020
 免疫逃避変異は流行しているHIV-1に保存されていることは知られているが、多数の免疫逃避特異的T細胞とHIV-1の共進化の研究はされていない。そこでHIV-1と多数のHLA拘束性HIV-1特異的T細胞が、どのように共進化していくかを研究した。RT135の免疫逃避変異は、HLA-B*51:01拘束性あるいはHLA-B*52:01拘束性T細胞により選択されることが知られている。1997年以前に感染した日本人の血友病患者あるいは非血友病患者で、HLA-B*51:01を保有した感染者ではRT135Tの選択と蓄積をすることが知られている(Kawashima et al. Nature 2009)。しかしながら今回の研究により、その後に感染した人では、RT135にLeuを持ったRT135L変異が蓄積してくることが明らかになった。この機序を明らかにするために、我々はRT135の変異に対するT細胞の解析をした。その結果、HLA-B*52:01-C*12:02 haplotype を持った人の内、HLA-B*52:01拘束性T細胞によりRT135V変異の選択・蓄積がされた人では、HLA-C*12:02拘束性エピトープであるTN9-8Vが新規に作り出され、これにより誘導されたTN9-8V特異的T細胞によりさらにRT135Lが選択されることが明らかになった。一方RT135T変異ウイルスに感染した人では、HLA-C*12:02拘束性TN9-8T変異特異的T細胞が誘導され、これにより RT135T 変異ウイルスの増殖が抑制されることが明らかになった。HLA-B*52:01-C*12:02 haplotypeが高頻度に見られる日本では、HLA-B*52:01拘束性TI8特異的T 細胞によりRT135V変異ウイルスの選択が起き、その後HLA-C*12:02拘束性TN9-8V特異的T細胞によるRT135Lの選択とHLA-C*12:02拘束性TN9-8T変異特異的T 細胞によるRT135T変異ウイルスの排除が起こり、その結果としてRT135L変異の蓄積が日本人の集団で起こることが明らかになった。一方、HLA-B*52:01-C*12:02 haplotypeが極めてまれなカナダでは、RT135Lの蓄積は見られなかった。本研究では、免疫逃避変異出現後に誘導される変異エピトープ特異的T細胞により、新たなHIV-1の集団の構築が起こることを明らかにした。
Yu Zhang, Nozomi Kuse, Tomohiro Akahoshi, Takayuki Chikata, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Hayato Murakoshi, and Masafumi Takiguchi, Role of escape mutant-specific T cells in suppression of HIV-1 replication and co-evolution with HIV-1, J. Virol. 94:e01151, 2020
 逃避変異の蓄積は、HIV-1特異的T細胞によるHIV-1の増殖抑制に影響を与えるが、いくつかの逃避変異ウイルス感染者では、逃避変異特異的T細胞を体内で誘導することが出来る。しかしながら、これらの逃避変異特異的T細胞が変異ウイルスの増殖を抑制するか十分研究がされていない。HLA-B*52:01拘束性T細胞エピトープRI8は、HIV-1 サブタイプBウイルスに感染した日本人では、HIV-1の増殖を強く抑制する“抑制エピトープ”として知られており、HLA-B*52:01陽性感染者の26%には、3つの変異(Gag280A/S/V)が見られる。そこで本研究では、RI8特異的T細胞とHIV-1の共進化、RI8逃避変異特異的T細胞によるHIV-1の増殖抑制についての研究を行った。その結果、Gag280A/S変異ウイルスに感染したHLA-B*52:01陽性患者では、これらの変異ウイルス特異的T細胞の誘導が見られなかったが、Gag280V変異ウイルスに感染した患者では、この変異を認識するRI8-6V変異特異的T細胞の誘導が見られた。RI8-6V変異特異的T細胞は、Gag280V変異ウイルスの増殖を抑制し、その結果野生型ウイルスを選択することが見られた。これらの結果から、HLA-B*52:01陽性患者は、陰性患者よりGag280V変異の蓄積が多く見られないことが説明できた。一方、野生型およびRI8-6V変異特異的T細胞が誘導できた人は、誘導できなかった人と比べて、高いCD4T細胞数が見られたことから、いずれかのT細胞の存在により体内のHIV-1の増殖は抑制されていると考えられた。Gag280V変異ウイルス感染者では、強い変異ウイルス増殖抑制能を有した変異ウイルス特異的T細胞が誘導されることから、この変異特異的T細胞はHIV-1の増殖抑制に貢献していること、またHIV-1の進化に大きな役割があることを明らかにできた。
Takayuki Chikata, Wayne Paes, Tomohiro Akahoshi, Thomas Partridge, Hayato Murakoshi, Hiroyuki Gatanaga, Nicola Ternette, Shinichi Oka, Persephone Borrow, and Masafumi Takiguchi, Identification of immunodominant HIV-1 epitopes presented by HLA-C*12:02, a protective allele, using an immunopeptidomics approach, J. Virol. 93: e00634-19, 2019
 エピトープの同定は、ワクチンにおける最適抗原の決定や免疫細胞の機能を解明するために非常に重要である。近年、質量分析装置の精度が飛躍的に向上し、HLA分子に結合するペプチドを効率的に解析することができるようになった。一方でHLA-CはHLA-AおよびBに比べ細胞表面上の発現量が低く、報告されているエピトープ数も少ない。そこで我々は、日本人HIV-1感染者におけるProtective AlleleであるHLA-C*12:02を対象として、液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)を用いてHIV-1感染細胞上に提示されるペプチドを網羅的に解析し、CTLエピトープの同定を試みた。
 まず、HLA-C*12:02を発現させた721.221-CD4細胞にHIV-1 NL4-3株を感染させ、抗HLA class I抗体によって免疫沈降を行い、結合したペプチドを分離した。続いて、LC-MS/MSによってアミノ酸配列解析を行なった。計二回の実験の結果、10,799種類のペプチド(8-11mer)の配列が得られたが、HIV-1 NL4-3株由来のペプチドはわずか15種類であった。15種類中、2種類が既知のHLA-C*12:02拘束性エピトープ(Pol-IY11およびNef-MY9)であり、1種がNef-MY9を含むNef-MY10であった。続いて、Env可変領域のペプチドを除く11種類を対象として、HIV-1サブタイプBのコンセンサス配列を持つペプチドを合成し結合能を調べたところ、HLA-C*12:02へ結合することが確認された。また、日本人HIV-1慢性感染者20名を対象として、IFN-g ELISPOT法によってT細胞反応を解析したところ、Pol-IY11、Nef-MY9、Env-RL9の3種類のみに反応した。Env-RL9に反応する患者は50%を上回ったが、それら反応と病態との相関関係は認められなかった。一方でT細胞反応が認められなかったペプチドに関し、出現頻度の高い変異アミノ酸を持つペプチドを合成し同様の解析を行ったが、T細胞反応は観測されなかった。
 以上の結果から、質量分析装置がHIV-1エピトープを網羅的に同定するための有用な手段であること、さらにHLAに結合したHIV-1ペプチドの多数はCTLエピトープになりにくい事が示された。
Best Paper Award 2019 for Joint Research Center for Human Retrovirus Infection (Kumamoto Campus)
Nozomi Kuse
, Xiaoming Sun, Tomohiro Akahoshi, Anna Lissina, Takuya Yamamoto, Victor Appay, and Masafumi Takiguchi, Priming of HIV-1-specific CD8+ T cells with strong functional properties from naive T cells, EBioMedicine 42:109-119, 2019
 HIV-1特異的CD8陽性T細胞はHIV-1の増殖抑制や潜伏感染細胞の排除に重要な役割を果たしている。しかしながら、ナイーブT細胞から高機能を有するHIV-1特異的CD8陽性T細胞を効果的に誘導することは、ワクチントライアルにおいて未だ解決できていない課題の一つである。そこで本研究では、ナイーブT細胞から高機能を有するHIV-1特異的CD8陽性T細胞を誘導する方法について解析を行った。
 HIV-1非感染者の末梢血単核細胞をペプチド存在下でTLR4リガンドLPSおよびSTINGリガンド3’3’-cGAMPでそれぞれ刺激を入れ、日本人に比較的高頻度に検出されるHLA-A*24:02拘束性Nef RF10特異的CD8陽性T細胞を誘導した。どちらのリガンドで誘導したRF10特異的CD8陽性T細胞も多種類のサイトカインやケモカインを産生できる多機能性を持っていた。しかし、LPSで誘導したT細胞はHIV-1の増殖を抑制することができなかった。一方、3’3’-cGAMPで誘導したT細胞はHIV-1を強く抑制できる能力を持っている上に、グランザイムBやパーフォリンの発現量もLPSで誘導したT細胞よりも有意に高いことが分かった。さらに3’3’-cGAMPは末梢血単核細胞からtype I IFNの産生をLPSより強く引き起こすことが分かり、3’3’-cGAMPによるtype I IFNの産生量は誘導されたT細胞のパーフォリンやグランザイムBの発現量、HIV-1増殖抑制能と相関が見られた。
 これらの成果から、3’3’-cGAMPはtype I IFNの産生を強く引き起こすことによってエフェクター機能の強いHIV-1特異的CD8陽性T細胞をナイーブT細胞から効率的に誘導できると考えられ、STINGリガンドがAIDSワクチンの開発や機能的治癒に役立つことが示唆された。
Chengcheng Zou,* Hayato Murakoshi,* Nozomi Kuse, Tomohiro Akahoshi, Takayuki Chikata, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Tomas Hanke, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Effective suppression of HIV-1 replication by CTLs specific for Pol epitopes in conserved mosaic vaccine immunogens, J. Virol. 93:e02142-18, 2019
 これまでのT細胞誘導型ワクチンのトライアルでは、体内でHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導されているにもかかわらず、HIV-1感染防止効果はほとんど示されていない。これは、ワクチン誘導CTLのHIV-1増殖抑制能が低いこと、および感染者に広まっているHIV-1に対するCTL認識能が低いことが原因と考えられる。したがって、強い増殖抑制能を持ち、変異性の低いconserved領域を認識するT細胞を誘導できるワクチンの開発が不可欠であると考えられる。我々はこれまでに、Oxford大学のTomas Hankeのグループとの共同研究において、GagおよびPol領域のconserved部位から構成されたtHIVconsvX mosaic vaccineを開発し、このワクチンによってHIV-1増殖抑制能を有するT細胞が誘導できることを示した(Ondondo, Muraksohi et al, Mol Ther 2016)。さらにその後の研究で、このワクチンによって誘導される5つのGag epitopeに特異的なCTLが強い増殖抑制能を持つことを明らかにした(Murakoshi et al, Retrovirology 2018)。しかしながら、強い増殖抑制能を持つPol領域に特異的なCTLは限られたものしか知られておらず、このワクチンのPol抗原にこのようなepitopeがあるかは不明である。
 そこで本研究では、HIV-1感染者において、このワクチンに含まれる強い増殖抑制能を有するPol epitopes特異的CTLの同定を試みた。ワクチンのPol領域を網羅したオーバーラップペプチドに対するT細胞反応を解析した結果、感染者においてHIV-1増殖抑制能を有する6種類のPol epitope特異的CTLの同定に成功した。また、in vitroにおけるHIV-1増殖抑制能の解析により、これら6種類のT細胞は強いHIV-1増殖抑制能を有することが示された。さらに、以前同定した5種類のGag epitopesおよび6種類のPol epitopesに対するCTL反応が感染者の病態進行指標(低いウイルス量と高いCD4T細胞数)と強く相関していることが明らかとなり、Polの抗原もHIV-1の増殖抑制に有効なCTLの誘導に必要であることが明らかになった。
 以上本研究より、tHIVconsvX ワクチンは予防ワクチンならびに潜伏感染細胞を排除するための治療ワクチンとしてきわめて有用である可能性が示唆された。
Hayato Murakoshi,* Nozomi Kuse,* Tomohiro Akahoshi, Yu Zhang, Takayuki Chikata, Mohamed Ali Borghan, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Keiko Sakai, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Broad recognition of circulating HIV-1 by HIV-1-specific CTLs with strong ability to suppress HIV-1 replication, J. Virol. 93: e01480-18, 2019
 これまでいくつかのT細胞誘導型エイズワクチンのclinical trialが行われているが、ワクチンによって体内にT細胞が誘導されているにもかかわらず、HIVの感染防止には至っていない。これは、ワクチンによって誘導されたT細胞のHIV増殖抑制能が弱いこと、または誘導されたT細胞が感染者に広まっているウイルスを認識できないことが原因と考えられる。したがって、効果的なエイズワクチンの開発を考える場合、ワクチンに誘導されるT細胞が強いHIV増殖抑制能を有し、感染者に見られるHIVを幅広く認識できることが重要であると考えられる。我々はこれまでに、10種類のエピトープ特異的CD8陽性T 細胞の反応が、日本人感染者の低い血漿中ウイルス量ならびに高いCD4T細胞数と有意に相関していることを明らかにした(Murakoshi et al, J Virol 2015)。しかしながら、これら10種類のT細胞が実際に強いHIV-1増殖抑制能を有し、日本人感染者に広まっているHIV-1を認識できるかは不明である。そこで本研究では、これら10種類のT細胞について、in vitroにおけるHIV-1増殖抑制能を解析し、さらに日本人感染者に見られる変異エピトープの認識能を解析した。
 10種類のエピトープ特異的T細胞クローンを樹立し、in vitroにおけるT細胞クローンのHIV-1増殖抑制能を解析したところ、10種類全てのT細胞クローンが強いHIV-1増殖抑制能を有していることが示された。Ex vivoおよびin vitroにおける変異エピトープペプチドに対するT細胞の認識能を解析した結果、10エピトープ特異的T細胞は日本人感染者に見られる84.1%-98.8%のHIV-1を認識できることが示された。さらに、感染者において比較的に高頻度に見られる変異(>5%)を有する7種類の変異ウイルスを作製し、変異ウイルス感染細胞に対するT細胞クローンの認識能を解析した結果、T細胞クローンはこれらの変異ウイルス感染細胞を十分に認識できることが判明した。以上の結果から、これら10種類のエピトープ特異的T細胞は、強いHIV-1増殖抑制能を有し、日本人感染者に見られるHIV-1を幅広く認識できることが明らかとなった。
 以上本研究より、これら10種類のT細胞は、HIV-1感染防止ならびにHIV-1根治を目指したHIV-1潜伏感染細胞の排除に有用であることが示唆された。


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