主な業績の研究内容

2023年

Nozomi Kuse, Hiroyuki Gatanaga, Yu Zhang, Takayuki Chikata, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Epitope-dependent effect of long-term cART on maintenance and recovery of HIV-1-specific CD8+ T cells. J. Virol. 97: e0102423, 2023
HIV-1特異的CD8陽性T細胞は再活性化させたHIV-1潜伏感染細胞の排除に重要であるが、長期多剤併用療法(cART)を受けているHIV-1感染者ではHIV-1特異的T細胞の頻度は減少し、その機能も疲弊したままであると言われている。一方で、治療下でのHIV-1特異的T細胞の解析はオーバーラップペプチドや限られたエピトープでしか行われていないため、その全体像は明らかではない。そこで、長期cARTがHIV-1特異的T細胞の誘導と維持にどのような影響を及ぼすのか明らかにするため、多数のエピトープを用いてcART治療前と長期cART治療下でのHIV-1特異的CD8陽性T細胞の解析を行った。 
2年以上cARTを受けているHIV-1感染者90名において、63個のエピトープペプチドに対するT細胞の反応を解析した。長期治療後でも56個のエピトープ特異的T細胞は検出できたが、T細胞の陽性頻度と反応の強さはエピトープ間で大きな違いがあった。またプロテクティブエピトープ特異的T細胞の陽性頻度と反応は、それ以外のエピトープ特異的T細胞よりも高かった。治療前のHIV-1特異的T細胞は多くの患者で検出できたが、cART開始時にAIDSだった患者の50%では検出できなかった。一方でAIDS治療患者は治療によるCD4数の回復が大きいほど治療後のT細胞の陽性頻度が高い傾向があり、cARTによって疲弊していたHIV-1特異的T細胞の増殖能の回復が見られた。このことから治療前にHIV-1特異的T細胞が検出できなかった治療患者でもcARTによる免疫的回復により特異的T細胞の誘導可能になることが示唆された。
本研究により、長期cART治療下でのHIV-1特異的CD8陽性T細胞の維持と誘導は、エピトープ依存的に異なることが明らかになった。プロテクティブエピトープを含め長期cART後に検出できるHIV-1特異的T細胞は、完治療法において有効なエフェクター細胞になりうる可能性が示唆された。
Takayuki Chikata, Hiroyuki Gatanaga, Hung The Nguyen, Daisuke Mizushima, Yu Zhang, Nozomi Kuse, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, HIV-1 protective epitope-specific CD8+ T cells in HIV-1-exposed seronegative individuals. iScience 26: 108089, 2023
感染リスクが高い集団(ハイリスク集団)の中でHIV-1曝露後に感染が成立しない人(HIV-1-exposed seronegative; HESN)がおり、彼らからHIV-1特異的T細胞反応が検出されることがこれまでの研究により明らかになっている。しかしながら、それらHIV-1特異的T細胞を樹立し解析した例は少なく、未だこれらのT細胞による感染防御のメカニズムが明確になっていない。我々は日本人HIV感染ハイリスク集団の日本人MSMを対象として、HIV-1特異的T細胞の誘導を試みた。本研究では、既報の143種類(拘束HLA型:28種類)のHIV-1エピトープを対象として、日本人MSMにおけるHIV-1非感染者200名より分離したPBMCを刺激し、長期間培養することによりHIV-1特異的CTLの誘導を試みた。 その結果、細胞内サイトカイン染色法(ICS assay)によって、200名の検体のうち4名の検体からHLA-B*51:01拘束性Pol TI8エピトープおよび、HLA-A*02:06拘束性Pol SV9エピトープ特異的T細胞を検出することができた。これらのT細胞はHIV-1慢性感染者においてHIV-1の増殖抑制に寄与することが知られているprotective epitope特異的T細胞であった。最後に、HIV-1感染細胞に対するこれらのT細胞の認識能を調べたところ、それぞれの特異的T細胞は明確にHIV-1感染細胞を認識することが確認できた。本研究により、HIV-1の増殖抑制能が高いprotective epitope特異的T細胞が、HIV-1の感染成立阻止にも寄与している可能性が示唆され、新しい予防ワクチンの開発に対して重要な知見を得られた。


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