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鈴 伸也 Suzu Shinya
エイズ学研究センター・准教授(医学教育部専任) 血液学・医学博士
若手研究者育成委員会 HIV-1Nefの機能解析


鈴 伸也 Suzu Shinya HIV-1 Nefの病原性発現機構の解析と標的低分子化合物の同定
これまで長年にわたり、単球系細胞の分化・増殖を制御する内在・外来性分子メカニズムを、受容体型チロシンキナーゼ(M-CSFレセプターなど)や非受容体型チロシンキナーゼ(Hckなど)に着目して研究を行ってきた。この様な研究背景、そしてHckがHIV-1の主要病原性タンパク質Nefの宿主因子である事実から、現在、このNef-Hck会合がエイズ発症に寄与する分子メカニズムの全容解明、そして一方でNef標的新規低分子化合物の同定を進めている。

先ず、NefがHckの活性化を通して、単球・マクロファージの表現型を決定するのに重要なサイトカインM-CSFの活性を抑制する事を新たに見出した(文献1)。


興味深いのは、別の主要なサイトカインGM-CSFの活性には影響しない事で、M-CSFに対する選択的抑制はNef-Hck会合、特に細胞内ゴルジ体での会合がM-CSFレセプターの細胞内輸送を阻害する事に起因するのも明らかにした(文献2)。以上の結果は、NefはHckという宿主因子を介して、感染マクロファージのタンパク質輸送系に影響を与え、そしてM-CSFレセプターがその典型的な標的タンパク質である事を示している。マクロファージが免疫系恒常性に重要な事、そしてM-CSF、GM-CSF両者のバランスがマクロファージの表現型維持に重要なのを考えれば、Nefのこの新たな作用はエイズ発症の分子機構を更に理解するのに有用と期待される。

一方で最近、スクリーニングを通してNef標的新規低分子化合物2c(C13H16O5, 分子量252.26)を同定した。2cはNefと宿主因子Hckの会合を完全に阻害し、その標的部位はNefの配列中のプロリン残基が並ぶ領域、PxxPモチーフである事も見出している。これまでに、このPxxPモチーフはNefの病原性因子としての様々な機能(主要組織適合抗原MHC Iの細胞表面発現低下、HIV-1ウィルス粒子感染性増強、HIV-1複製亢進など)に必須な事が明らかにされており、2cはこれらNefの機能を阻害する事が期待される。将来的な薬剤候補としてだけでなく、”最も良く研究され、最も分かっていない”HIV-1病原性タンパク質Nefの根本的な機能発現メカニズムを解明する上でも2cは有用と期待される。


参考文献
1. Suzu S, Harada H, Matsumoto T, Okada S. HIV-1 Nef interferes with M-CSF receptor signaling through Hck activation and inhibits M-CSF bioactivities. Blood 205, 3230-3237, 2005
2. . Hiyoshi M, Suzu S, Yoshidomi Y, Hasaan R, Harada H, Sakashita N, Akari H, Motoyoshi K, Okada S. Interaction between Hck and HIV-1 Nef negatively regulates cell surface expression of M-CSF receptor. Blood 111, 243-250, 2008


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