本拠点の取り組み若手研究者国際研究グラント>若手研究者国際研究グラント採択者研究成果一覧



Masao Hashimoto
(Takiguchi Project Lab, Center for AIDS Research, Kumamoto University)
平成22−23年度採択
【平成20-21年度若手研究者国際萌芽研究グラント採択

外国人共同研究者名

Victor Appay  (INSERM, France)


Kristin Ladell*, Masao Hashimoto*, Maria Candela Iglesias*, Pascal G. Wilmann*, James E. McLaren, Stephanie Gras, Takayuki Chikata, Nozomi Kuse, Solene Fastenackels, Emma Gostick, John S. Bridgeman, Vanessa Venturi, Zaina Ait Arkoub, Henri Agut, David J. van Bockel, Jorge R. Almeida, Daniel C. Douek, Laurence Meyer, Alain Venet, Masafumi Takiguchi**, Jamie Rossjohn1**, David A. Price** and Victor Appay** (*,** Equal contribution), A molecular basis for the control of pre-immune escape variants by HIV-specific CD8+ T-cells. Immunity. 38:425-436, 2013

HIVの病態進行はHLA-B*27:05のような特定のHLAクラスIを保有する感染者で遅いことが知られているが、そうしたHIV感染者での免疫応答がどのように維持されているかについての分子レベルでの機序は解明されていなかった。今回、我々滝口プロジェクト研究室を含むフランス、英国、オーストラリアの4か国の研究グループが、HLA-B*27:05を保有する感染者の細胞性免疫を解析しその一端を明らかにした。
 HLA-B*27:05保有HIV感染者では、Ga263-272由来のKRWIILGLNKというペプチド(KK10)がHIV特異的CTLの主要な標的エピトープとなるが、感染後早期にKK10の6番目のアミノ酸がLからMに変異した変異型ウイルス(LM)が出現する。通常はこの変異の出現に生体内のウイルス量の増幅は伴わないことから、免疫応答がどのようにLMの複製を抑制しているかを解析した。まず、野生型KK10ペプチド(WT-KK10)あるいはLM-KK10ペプチド(LM-KK10)に特異的に結合するテトラマーを用いて、感染初期から経時的にHLA-B*27:05保有HIV感染者の末梢血をex vivoで解析したところ、感染初期にはWT-KK10特異的CTLが高頻度で認められ、その後でWT-KK10とLM-KK10を同等に高感度で認識するCTLが誘導されていた。LM-KK10に交差反応性を示すCTLはWT-KK10特異的CTLと異なったTCR(TRBV6-5/TRBJ1-1など)を持っていた。TRBV6-5/TRBJ1-1のTCRを持つCTLクローン(C12C)のWTあるいはLM感染細胞の認識能を調べたところ、C12CはWT感染細胞とLM感染細胞を両方とも高感度に同等に認識した。さらに、C12CのTCRとWT-KK10/LM-KK10-HLA-B*27:05分子複合体の結晶構造の解析では、C12CのTCRはWT-KK10-、LM-KK10-HLA-B*27:05複合体に対してほぼ同様の結合様式を示した。最後に、in vitroの系を用いてWT-KK10特異的CTLクローンとLMに交差反応性を示すC12Cの変異型ウイルスの選択能について比較したところ、前者はWTに対してLMを選択し、後者はWTとLMの両方のウイルス複製を抑制するが、WTに対してLMを選択することはなかった。その一方で、感染後期に生体内で出現するさらなる変異型ウイルス(KK10の2番目のアミノ酸がRからKに変異:RK+LM)はC12Cのみによって選択された。
 これらの結果からHLA-B*27:05陽性HIV感染者では、1)感染初期はWT-KK10特異的CTLがウイルス複製を抑制する、2)WT-KK10特異的CTLが変異型ウイルス(LM)を選択すると、WTとLM感染細胞を同等に認識する新たなTCRを持ったCTLが誘導され、それらがLMの複製を抑制する、3)その結果、HIVはHLAクラスIの抗原提示に関わる部位の変異(RK+LM)を獲得してLMに交差反応性を示すCTLの認識からも逃避する、ことが示唆された。すなわち、早期に出現する変異型ウイルスに対して交差反応性を示すCTLが、最終的に出現する免疫逃避変異型ウイルス(RK+LM)が選択されるまで病態の進行を制御するように働いていることが分子レベルで明らかになった。




Madoka Koyanagi
(Takiguchi Project Lab, Center for AIDS Research, Kumamoto University)
平成22−24年度採択
【平成21年度若手研究者国際萌芽研究グラント採択

外国人共同研究者名

Philip Goulder  (University of Oxford, UK)


Philippa C. Matthews*, Madoka Koyanagi*, Henrik N. Kloverpris*, Mikkel Harndahl, Anette Stryhn, Tomohiro Akahoshi, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, Claudia Juarez Molina, Humberto Valenzuela Ponce, Santiago Avila Rios, David Cole, Jonathan Carlson, Rebecca P. Payne, Anthony Ogwu, Alfred Bere, Thumbi Ndung’u, Kamini Gounder, Fabian Chen, Lynn Riddell, Graz Luzzi, Roger Shapiro, Christian Brander, Bruce Walker, Andrew K Sewell, Gustavo Reyes Teran, David Heckerman, Eric Hunter, Soren Buus, Masafumi Takiguchi, and Philip J. R. Goulder (*Equal contribution), Differential clade-specific HLA-B*3501 association with HIV-1 disease outcome is linked to immunogenicity of a single Gag epitope. J. Virol. 86:12643-12654, 2012

日本のHIV-1サブタイプB感染コホートにおいてHLA-B*35:01陽性感染者は、他のHLAを持つ感染者に比較し、有意にウイルス量が高い。一方、南アフリカで感染が蔓延しているサブタイプ C感染においては、サブタイプB感染とは異なり、B*35:01陽性HIV-1慢性感染者群はB*35:01陰性慢性感染者群とのウイルス量に差異はみられない。そこで、Oxford大学のDr.Goulderらと共同研究を行い、サブタイプB感染者ではサブタイプC感染者に比較しHIV感染制御に重要な役割を果たす有益な細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導されていないのではないかという仮説を立て、B*35:01陽性無治療HIV-1 サブタイプ C慢性感染者 42人、日本人30人を含むB*35:01陽性無治療サブタイプ B慢性感染者72人のPBMCを用いて13種類(Nef 2, Gag 2, Pol 5, Rev 1,Env 3種類)のB*35:01拘束性エピトープに対するex vivoのCTL応答をIFN-γ ELISPOT assayにより検出した。
 その結果、Gag p24 NY10エピトープに関して、約40%のサブタイプ C感染者が反応を示したのに対し、サブタイプ B感染は約3%に限られ(p=4x10-5)、サブタイプ C感染ではこのエピトープに対する反応と低いウイルス量に相関がみられた(p=0.03)。NY10エピトープのアミノ酸配列を比較するとサブタイプ Bウイルスでは8番目のアミノ酸がグルタミン酸(NY10-8E)、サブタイプ Cウイルスではアスパラギン酸(NY10-8D)という違いがあり、HLA-B*35:01陽性感染者ではグルタミン酸への変異が蓄積していることが分かった。NY10-8EペプチドおよびNY10-8Eウイルス感染細胞に対するNY10特異的CTLの反応はNY10-8DペプチドおよびNY10-8Dウイルス感染細胞に対する反応に比較し弱く、その原因として、MHCとペプチドの結合能力がNY10-8Dに比較し、NY10-8Eでは低下していることが考えられた。
 以上の結果から、サブタイプC感染ではNY10エピトープ特異的CTLがHIV-1増殖抑制に重要な役割を果たしており、サブタイプ B感染ではNY10エピトープに対する反応がなく、ウイルス量を制御するCTL反応が少ないことが予後の悪い原因の一つであることが示された。




Yoshinori Sato
(Takiguchi Project Lab, Center for AIDS Research, Kumamoto University)
平成23−24年度採択
【平成22年度若手研究者国際萌芽研究グラント採択

外国人共同研究者名

Tomas Hanke  (University of Oxford, UK)


Yoshinori Sato, Sayaka Nagata, and Masafumi Takiguchi, Effective elicitation of human effector CD8+ T cells in HLA-B*51:01 transgenic humanized mice after infection with HIV-1. PLoS ONE. PLoS ONE 7: e42776, 2012

ヒトの免疫細胞をマウス内に再構築したヒト免疫構築マウス(ヒト化マウス)は、ヒトを感染宿主とするウイルスの病原性やヒト免疫応答をin vivoで解析できるマウスモデルとなることが期待されている。しかし、ヒト臍帯血由来CD34+細胞のみを高度免疫不全マウスへ移植したヒト化マウスモデルは、ヒトT細胞の教育に必要なHLAを持たないため、ウイルス感染細胞の排除に重要な役割を持つヒトエフェクターCD8+T細胞がヒト化マウス内で誘導されないことを我々は以前の研究で明らかにしている。
 そこで我々は、HLA-B51遺伝子を導入した高度免疫不全マウスであるHLA-B*51:01トランスジェニックNOD/SCID/Jak3-/-(NOK/B51Tg)マウスにヒトCD34+細胞を移植したヒト化NOK/B51Tg(hNOK/B51Tg)マウスを作成し、HIV-1感染に対してhNOK/B51Tgマウス内でヒトエフェクターCD8+T細胞が誘導されるかについて詳細に解析した。非感染hNOK/B51Tgマウス群および非感染hNOKマウス群の間では、late effector memoryおよびeffector CD8+T細胞サブセット (CD27lowCD28-CD45RA+/-CCR7- and CD27-CD28-CD45RA+/-CCR7-)の割合に有意な差は見られず、エフェクター機能をもつT細胞の指標となるCX3CR1/CXCR1を発現しているヒトCD8+T細胞の割合も有意な差は見られなかった。HIV-1感染hNOK/B51Tgマウス群では、late effector memoryおよびeffector CD8+ T細胞とCX3CR1/CXCR1を発現しているヒトCD8+T細胞の割合が非感染hNOK/B51Tgマウス郡に比べ有意に高くなった。一方、HIV-1感染hNOKマウス群と非感染hNOKマウス群の間では、それらの割合に有意な差は見られなかった。これらの結果から、hNOK/B51TgマウスのヒトCD8+T細胞は、HIV-1感染によってエフェクターT細胞に分化する能力を持つことが示唆された。
 本研究は、HIV感染に対するヒト免疫応答をhNOK/B51Tgマウスを用いて解析できる可能性を示し、さらに改良を重ねHIV研究に用いることで、今後のHIV-1感染症への理解が飛躍的に進展すると期待できる。



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