エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、年々その感染者が増加
しています。
WHOによりますと全世界で5,000万人以上の人が既に感染しており、日本におけるHIV
の感染者は5,000名、エイズ患者は2,500名と報告されていますが、潜在患者数はさらに
多く、また、その数は確実に増加傾向にあります。エイズ治療にはHAART治療法のよう
な有効な薬剤治療法が開発されましたが、その費用が高額なために世界的にみると十
分な治療が行われているとは言えず、エイズ流行の制御には至っておりません。
このような状況から、ワクチンによるエイズの予防対策が強く期待されており、世界的
にもワクチン開発が精力的に行われていますが残念ながら未だに予防効果を確認され
たものはありません。一般的に抗原変異が著しいウイルスに対するワクチンの開発は
困難であること、HIV-1に感染しエイズを発症する実験動物が存在しないため開発した
ワクチンの効果を評価する動物実験が難しいことから、HIV-1に対するワクチンの開発
は困難をきわめているのが現状であります。
当研究室は「HIV-1が感染しエイズを発症するモデルマウスを細胞工学および遺伝子
工学的手法を用いて作製し、これらのマウスを用いてエイズの病態解析とワクチン等の
治療法の開発を行うこと」を目的に、2002年に開設されました。そのために、より効率よ
くヒトの造血系・免疫系が構築可能な免疫不全マウスを開発すると共に、ヒトの造血系・
免疫系の基礎的な研究を行ってまいります。
これらの研究を通じて、エイズ撲滅のみならず様々な血液疾患やC型肝炎など他のウ
イルス疾患・自己免疫病の病態解析と治療法の開発に役立ち、広く臨床医学へ還元可
能な研究に発展させていきたいと考えています。
2004年7月
国際免疫学会(モントリオール)にて