主な業績の研究内容
1997-2000年
Hiroko Tomiyama, Shinichi Oka, Graham S. Ogg, Setsuko Ida, Andrew J. McMichael and Masafumi Takiguchi, Expansion of HIV-1-specific CD28-CD45RA-CD8+ T cells in chronically HIV-1 infected individuals. AIDS. 14:2049-2051, 2000.
細胞傷害性T細胞(CTL)は感染者体内でHIV-1感染細胞の除去に重要な役割をはたしている。しかし、感染者の末梢血リンパ球でHIV-1に対する強いCTL活性が認められるにもかかわらず、HIV-1は感染者の体内から完全に排除されない。HIV-1特異的CD8(+)T細胞を解析することはHIV-1が免疫系によって排除されない原因を究明するために重要である。最近抗原特異的CD8(+)T細胞をフローサイトメトリーで高感度に検出できるHLA-class/ペプチドテトラマー(テトラマー)が開発された。我々は、HLA-B35分子によって提示される6種類のHIV-1エピトープペプチドを用いてテトラマーを作製し、HIV-1感染者の末梢血リンパ球中のテトラマー陽性細胞を解析した。その結果、HIV-1慢性感染者のHIV-1特異的CD8(+)T細胞ではCD28(-)CD45RA(-)分画のCD8(+)T細胞が増加していることが明らかであった。HIV-1感染者から単離された細胞傷害性T細胞クローンも同様にCD28(-)CD45RA(-)であったことから、この表原型を持つテトラマー陽性CD8(+)T細胞は、細胞傷害性をもち、HIV-1感染者の体内でHIV-1の排除に重要な役割を果たしている事が示唆された。
Hiroko Tomiyama, Naoyuki Yamada, Hiroki Komatsu, Kazuo Hirayama and Masafumi Takiguchi, A single CTL clone can recognize a naturally processed HIV-1 epitope presented by two different HLA class I molecules. Eur. J. Immunol. 30:2521-2530, 2000.
1つの細胞傷害性T細胞(CTL)エピトープが異なる2つのHLA-Class I分子に拘束されたCTLによって認識されることがしられているが、1つのエピトープが複数のHLA-Class I分子によって提示される事を直接的に証明した報告はない。また、2つのHLA-Class I分子により提示された1つのエピトープが単一のCTLによって認識されているかも未だに明らかにされてはいない。HLA-B35と-B51分子に結合するペプチドのモチーフは非常に似ていることが報告されている。よってこの2つの分子が同じペプチドをCTLに提示している可能性が示唆された。我々は、この2つのalleleによって提示される、同一のHIV-1 Pol由来のエピトープ(SF2-24)を認識するCTLクローンを樹立し、その解析を行った。SF2-24が2つのHLA-Class I分子によって提示されることを明らかにする為に、HPLCを用いて組換え型Vaccinia Virus感染C1R-B*3501及び-B*5101細胞からエピトープの溶出単離を行った結果、37番のフラクションがこのエピトープ特異的CTLクローンによって認識された。また、これらのフラクションに含まれるペプチドアミノ酸配列をLC-Massで分析した結果、共にSF2-24の配列を持つペプチドが検出された。これらの結果から、このエピトープがHLA-B35及び-B51により提示されることが明らかであった。さらに、SF-24特異的CTLクR−ン589のTCRをPCRで解析した結果、2つのVα鎖(10.1、12.1)、及び1つのVβ鎖(2.1)が検出された。抗Vα12.1抗体を用いてその細胞表面の発現を調べたところ、この抗体で染色されない細胞集団が見られなかったことから、SF2-24-589がクローンであることが強く示唆された。また、HLA-B35陽性及び-B51陽性細胞にペプチドをパルスした標的細胞に、対するSF2-24-589の細胞傷害活性は、4量体GLA-B35/SF2-24複合体で共に阻害された。これらの結果から、1つのCTLクローンがHLA-B35及び-B51によって提示される1つのエピトープを認識することが直接的に明らかにされた。  
Yuki Ikeda-Moore, Hiroko Tomiyama, Kiyoshi Miwa, Shinichi Oka, Aikichi Iwamoto, Yutaro Kaneko, and Masafumi Takiguchi, Identification and characterization of multiple HLA-A24-restricted HIV-1 CTL epitopes: Strong epitopes are derived from V regions of HIV-1. J. Immunol. 159:6242-6252, 1997. [Abstract]
HLA-A24(A*2402)は日本をふくめて東アジアではもっとも高頻度で見られるHLAクラスI alleleである。エイズの流行が急速に進んでいる東アジアにおいて、HLA-A24が提示するHIV-1 CTLエピトープを同定することは、エイズ発症の機序、エイズワクチンの開発上きわめて重要である。リバース・イムノジェネテックス法を用いて11個のHLA-A24高速性HIV-1 CTLエピトープを同定した。このうち6つのエピトープに対するCTLが多くのHLA-A24をもっているHIV-1感染者で見られた。このことから、これら6つのエピトープが免疫学的に重要なエピトープと考えられた。また報告されているHIV-1のシークエンスからこれら6つのエピトープ上の変異を調べ、CTLが認識できるかを明らかにした。これらの結果は、今後東アジアを中心としてHLA-A24が見られる地域でのHIV-1感染者の免疫要的解析に貢献すると考えられる。
Hiroko Tomiyama, Kiyoshi Miwa, Hajime Shiga, Yuki Ikeda-Moore, Shinichi Oka, Aikichi Iwamoto, Yutaro Kaneko and Masafumi Takiguchi, Evidence of presentation of multiple HIV-1 cytotoxic T lymphocyte epitopes by HLA-B*3501 molecules that are associated with the accelerated progression of AIDS. J. Immunol. 158:5026-5034, 1997. [Abstract]
細胞傷害性T細胞(CTL)は、HIV-1感染者生体防御反応に重要な役割を果たしている。HIV-1感染後、長期に生存している患者あるいは、瀕回にHIV-1感染の機会にされされているにもかかわらずHIV-1に感染しない個体では、高いCTL活性が検出されている。これらの結果から、CTLの誘導を目的としたワクチンが考案されている。しかしながら、多くのHIV-1感染者では、感染初期に高いCTL活性が検出されるにもかかわらず、HIV-1は完全に排除されず、数年の後にCTL活性が減少し、AIDSの発症にいたることが報告されている。一方、数種の疾患において、HLAと疾患感受性との関連が示唆されている。HIV-1患者でも、日本人の約15%が保有するHLA-B35はAIDSの早期発症との関連が示唆されている。しかしながら、そのメカニズムは明らかにされてはいない。HLA-B35の提示するCTLエピトープを解析することはAIDS発症のメカニズムを明らかにするために重要と考えられる。我々は、HIV-1感染者の末梢血リンパ球をHLA-B35に結合するHIV-1由来のペプチドで刺激し、特異的CTL活性を誘導した。また、このBulk CTLからCTLクローンを樹立し、解析した結果、9つのペプチドがHLA-B35により細胞内部から提示されるエピトープであることが確認された。これらの結果から、HLA-B35によって多数のHIV-1 CTLエピトープが提示されることが明らかであった。データーベースより、9つのCTLエピトープの変異を確認した結果、合計22の変異が確認された。これらの変異エピトープのうち、19がCTLの認識に影響を与えていた。その原因を解析したところ、7つの変異エピトープはHLA-B35分子との結合が低下しており、残る12のエピトープの変異はT細胞受容体の認識に影響していることが示唆された。これらの結果から、変異エピトープに対するCTLの認識の低下にはHLA-ClassI分子と変異エピトープの親和性及び、T細胞受容体との親和性の2つの機序が関係していることが明らかにされた。

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