主な業績の研究内容
2001-2004年
Naoki Kobayashi, Hiroshi Takata, Shumpei Yokota, and Masafumi Takiguchi, Down-regulation of CXCR4 expression on human CD8+ T cells during peripheral differentiation. Eur. J. Immunol., 34(12): 3370-3378, 2004.
ヒト末梢CD8 T細胞は分化・成熟するにしたがってCXCR4の発現が減少する

CCR7およびCCR5はCD8 T細胞の分化・成熟段階において特有の発現を示すことが報告されている。CCR7やCCR5と同じくケモカインレセプターに属するCXCR4は、造血や血管形成に関与し、また、HIV-1が細胞に侵入する際の補助受容体としても知られているが、CD8 T細胞における発現とその役割に関しては明らかになっていない部分が多い。そこで、ヒト末梢CD8 T細胞の分化・成熟段階におけるCXCR4の発現について解析したところ、CXCR4陽性細胞の頻度はナイーヴ分画でもっとも高く、エフェクター分画でもっとも低い結果であった。 またCXCR4の発現がperforinの発現と反比例しており、このことはCXCR4がナイーヴCD8T細胞で強く発現しているという事実の合致している。 また、健常人において、Epstein-Barrウイルス(EBV)特異的CD8 T細胞のほとんどがメモリーフェノタイプであったが、EBV特異的CD8T細胞はCXCR4陽性であり、一方ヒトサイトメガロウイルス特異的CD8 T細胞では約45%の細胞集団がCXCR4 陰性で、エフェクターフェノタイプを示す細胞集団の頻度とほぼ同じであった。以上のことから、CXCR4の発現は末梢CD8 T細胞が分化成熟するにしたがって低下し、未熟なCD8 T細胞において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。CCR7およびCCR5を含め、これらのケモカインレセプターの発現によるヒトCD8 T細胞の分類はヒトCD8 T細胞の分化・成熟の研究において有用であると思われる。
Takamasa Ueno, Hiroko Tomiyama, Mamoru Fujiwara, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Functionally impaired HIV-specific CD8 T cells show high-affinity T cell receptor-ligand interactions. J. Immunol. 173: 5451-5457, 2004.

HIV特異的CD8T細胞の機能障害は、T細胞レセプターの高親和性に起因する

我々は慢性HIV感染患者からHLA-B35拘束性のHIV pol由来ペプチド(IPLTEEAEL)に特異的な2種類の異なるCD8T細胞集団を同定した。HLAテトラマーを用いてT細胞レセプター(TCR)と抗原ペプチドとの相互作用を解析したところ、両集団では3倍以上の親和性変化が認められた。両者の機能解析を行ったところ、適度な結合性を示したCD8T細胞では,HIV感染細胞に対して顕著な細胞傷害活性、サイトカイン産生、ならびに増殖活性を示したにもかかわらず、高い結合性を示したCD8T細胞ではそうした活性は認めなかった。一方、合成ペプチドをパルスした細胞に対しては両T細胞ともほぼ同等の活性を示した。さらに両T細胞からTCR遺伝子をクローニングし、健常人から分離したCD8T細胞に導入した。高い結合性を示したTCR遺伝子の導入により、CD8T細胞はテトラマーに対する高結合活性を得たが、HIV感染細胞に対する細胞傷害活性は示さなかった。この結果は慢性HIV感染患者のCD8T細胞で観察された結果をよく再現していたことから、HIV感染細胞に対するT細胞の機能障害はTCRの抗原認識レベルで起こることが明らかとなった。このことはHIVの免疫逃避機構に対する新たな示唆を与えるものである。

Center for AIDS Research Best Paper Award 2004
Hiroshi Takata
, Hiroko Tomiyama, Mamoru Fujiwara, Naoki Kobayashi, and Masafumi Takiguchi, Cutting edge: Expression of Chemokine Receptor CXCR1 on Human Effector CD8+ T Cells. J. Immunol. 173: 2231-2235, 2004.

ヒトCD8+ T細胞上でのケモカイン受容体CXCR1の発現

IL-8は強力な炎症性サイトカインであり、その受容体であるCXCR1とCXCR2を発現する好中球はIL-8に対して遊走能を示す。このことはIL-8がバクテリアの増殖している炎症部位への好中球の遊走に関与していることを示している。今回我々はCXCR1陽性細胞は主にエフェクターフェノタイプを示すCD8+ T細胞であって、このCXCR1の発現はPerforinの発現と正の相関関係があり、CXCR1がエフェクターCD8+ T細胞に発現していることを報告する。実際に細胞傷害活性を持ち、エフェクターフェノタイプを示す健常人由来ヒトサイトメガロウイルス特異的CD8+ T細胞はCXCR1を発現していた。反対に、そのほとんどがメモリーフェノタイプを示し、細胞傷害活性を持たないEBウイルス特異的CD8+ T細胞ではCXCR1の発現は見られなかった。また、CXCR1陽性CD8+ T細胞はIL-8に対して遊走能を示した。これらの結果から、IL-8/CXCR1を介した経路はエフェクターCD8+ T細胞のホーミングにおいて重要な役割を果たしていることが示唆された。

Hiroko Tomiyama, Hiroshi Takata, Tomoko Matsuda, and Masafumi Takiguchi, Phenotypic classification of human CD8+ T cells reflecting their function: An inverse correlation between quantitative expression of CD27 and cytotoxic effector function. Eur. J. Immunol. 34: 999-1010, 2004.
近年、T細胞分化マーカーであるCD27・CD28・CD45RAの発現量の違いにより、CD8+ T細胞はナイーブ・メモリー・エフェクター細胞に分類できることが示された。しかし、これらのマーカーを用いたCD8+ T細胞の分類が、本当に細胞の機能を反映しているかは分かっていない。そこで我々は、CD8+ T細胞全体とヒトサイトメガロウイルス(HCMV)特異的CD8+ T細胞を対象として、CD27・CD28・CD45RAによって分けられる各細胞集団の機能と、パーフォリンやケモカイン受容体であるCCR5・CCR7の発現を解析した。CD28・CD45RAによって分類される4つの細胞集団全てにおいて、パーフォリンとCD27の発現には逆相関が見られた。より正確に機能を反映した分類を行うため、我々はCD27陽性細胞集団をその発現量の違いからCD27low・CD27highの細胞集団に分けた。この細分化した各CD8+ T細胞集団の機能解析とフローサイトメトリー解析を行い、それぞれの細胞の機能を反映していることを確認した。さらに、健常人から分離したHCMV特異的CD8+ T細胞は大部分がエフェクターまたはメモリー/エフェクター細胞であったことは、健常人ではエフェクターHCMV特異的CD8+ T細胞がウイルスの複製によって常に誘導されていることを示している。よって、このCD27・CD28・CD45RAを用いたCD8+ T細胞の分類は抗原特異的CD8+ T細胞の解析に非常に有用であると考える。

Center for AIDS Research Best Paper Award 2002
Ueno Takamasa
, Hiroko Tomiyama, and Masafumi Takiguchi, Single T cell receptor-mediated recognition of an identical HIV-derived peptide presented by multiple HLA class I molecules. J. Immunol. 169:4961-4969, 2002.

これまでの研究から、HIV Pol由来のペプチド(IPLTEEAEL)は、ウイルス感染細胞上のHLA-B*3501HLA-B*5101という異なった2つのHLAクラスI分子に提示されることが知られていた。また、この2つのHLA分子に提示された同一のペプチドを特異的に認識する細胞傷害性T細胞(CTL)クローンも樹立されたが、このCTLクローンはT細胞レセプター(TCR)として2つのα鎖と一つのβ鎖を有していたため、このCTLクローンの交叉反応性がどちらか一つのTCRによるものなのか、それぞれ別のTCRによるものなのか不明であった。
本研究ではまずこの点を明らかにするために、TCRのα鎖およびβ鎖遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて個々に
TCRが欠損したマウスT細胞ハイブリドーマに導入した。その結果、Vα12.1Vβ5.6を導入した細胞では、ペプチド特異的な応答が認められたことから、CTLクローンで見られた交叉反応性は単一のTCRによるものであることが明らかとなった。さらに興味深いことに、このVα12.1/Vβ5.6 TCRは、非自己のHLA分子であるHLA-B*5301あるいはHLA-B*0702に提示された同一のペプチドも認識した。T細胞が示す免疫応答の感度は、ペプチドがどのHLA分子に提示されているかによって異なるが、その違いはHLA分子とペプチドとの結合活性と非常によく相関することから、Vα12.1/Vβ5.6 TCRは試みたどのペプチド・HLA複合体に対してもほぼ同様の結合活性を有すると示唆された。さらに、HLA-B*3501, HLA-B*5101, HLA-B*5301, HLA-B*0702を発現するターゲット細胞にペプチドをパルスすると、もとのCTLクローンは顕著な細胞傷害性を示したことから、このVα12.1/Vβ5.6 TCRが複数の異なったHLAクラスI分子に提示された同一ペプチドを特異的に認識することが明らかとなった。このようにHIV由来の抗原に強い特異性を持つ一方で、それを提示するHLAクラスI分子(HLAの拘束性)には寛容なTCRは、HIV感染に対する新たな免疫療法の可能性を示唆している。
Hiroko Tomiyama, Hirofumi Akari, Akio Adachi and Masafumi Takiguchi, Different effects of Nef-mediated HLA class I down-regulation on HIV-1-specific CD8+ T cell cytolytic activity and cytokine production. J. Virol. 76:7535-7543, 2002.
高頻度の特異的CD8+ T細胞が誘導されるにもかかわらず、HIV-1は感染者の体内から完全には除去されない。HIV-1が特異的CD8+ T細胞の認識を免れる機構については多くの報告があるが、いまだに明らかにされてはいない。
HIV-1感染細胞ではNefタンパクの作用によりCD8+T細胞に抗原を提示するHLA-ClassI分子の発現低下(down-regulation)が起きることが知られている。Collins等は、HIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)がNef+のHIV-1感染CD4+T細胞に対して細胞傷害活性を示せないことを明らかにし、NefによるHLA-ClassI分子のdown-regulationがHIV-1の免疫回避機構の一つであることを示唆した。われわれも同様に、HIV-1特異的CTL cloneがNef+HIV-1感染CD4+T細胞(健常人から単離した)に対して細胞傷害活性を示さないことを確認した。
HIV-1特異的CD8+ T細胞はサイトカイン及びケモカインなどの液性因子を分泌し、これらの作用によっても、HIV-1の増殖を阻害していることが知られている。しかし、感染細胞のHLA-ClassIのdown-regulationがCD8 T細胞の液性因子に影響しているかどうかは明らかにされていない。われわれは、HIV-1感染細胞でHIV-1特異的CTLを刺激し、CTLの液性因子産生能を解析した。
Nef+ のHIV-1感染細胞で刺激されたHIV-1特異的CTL cloneはインターフェロン-γ、TNF-α、MIP-1βなどの液性因子を産生した。しかし、その産生量はNef変異HIV-1(HLA-ClassIのdown-regulationを起こさない)感染細胞で刺激を受けたものに比較して少なかった。これらの結果は、NefタンパクによるHLA-ClassIのdown-regulationが特異的CTLの液性因子産生にも影響していることを示しているが、細胞傷害活性に対するものと比べてその影響は少なく、CD8 T 細胞はNef+HIV-1感染細胞の刺激により少量の液性因子を産生することが示された。さらに、特異的CTLが感染細胞のHLA-ClassIのdown-regulationにもかかわらず、HIV-1の増殖を抑制出来るかどうかをHIV-1感染直後のCD4+T細胞をCTL cloneと共培養し確認した。結果、特異的CTL clone は、Nef+のHIV-1の増殖をCTLが部分的ではあるが抑制していることが示された。尚、Nef変異HIV-1感染細胞とCTL cloneの共培養では、HIV-1の増殖は完全に抑制された。以上の結果により、HIV-1 特異的CTLは液性因子の作用により、部分的にNef+ HIV-1の増殖を抑制していることが示唆された。
また、本検討の結果から、Nefによる感染細胞のHLA-ClassIのdown-regulationが、感染者体内においてHIV-1特異的CTLがHIV-1の増殖を部分的には抑制するが、完全に除去することが出来ない原因の一つであることが推察された。
Hiroko Tomiyama, Tomoko Matsuda, and Masafumi Takiguchi, Differentiation of Human CD8+ T Cells from a Memory to Memory/Effector Phenotype. J. Immunol. 168: 5538-5550, 2002.
memory及びeffectorCD8T細胞は細胞傷害活性および種々のfactorを産生することにより、ウイルス感染細胞の除去に重要な役割を担っている。また、これらの細胞のex vivoにおける解析は、細胞性免疫能の誘導を目的とした、ワクチンの効果判定のためにも重要である。しかしながら、memoryCD8+ T細胞の分化及び、その特性に関しては十分な検討がなされているとはいえない。
CD8(+) T 細胞は特異的抗原刺激により、memory T細胞からeffector T細胞に変化していくことが知られている。CD8(+) T 細胞に発現しているCD45RA, CD27,CD28などの分子は、特に、CD8(+) T細胞の分化とその発現が関係していることが推察されている。サイトカイン産生能及び細胞傷害活性に重要な役割を果たすperforinの発現と上記の分子の発現を検討した報告から、CD28(+)CD45RA(-)及びCD27(+)CD45RA(-)がmemory細胞、CD27(-)CD45RA(-)びCD28(-)CD45RA(-)細胞がmemory/effector typeに分類されることが示唆されている。しかしながら、memory細胞から、memory/effector細胞に移行する経路は完全には明らかにされていない。本研究でわれわれは、HLA-Class I-tetramerを用いてEBV(Epstein-Barr virus)及びCMV(cytomegalovirus)特異的CD8(+) T細胞を検出し、上記の3分子に加えて、最近CD8(+) T細胞の分化とその発現が報告されている2種のケモカインレセプター(CCR5,CCR7)の発現を解析し、CD8(+) T細胞の分化経路を検討した。これらのウイルス特異的CD8(+)CD45RA(-) T細胞では、CD27(+)CD28(+), CD27(+)CD28(-) CD27(-)CD28(-)の表現形を持つ細胞が検出された。Total CD8(+) T 細胞では検出される、CD27(-)CD28(+)の細胞群が特異的CD8(+) T細胞では非常に少数であった。特異的CD8(+) T 細胞で検出される3つのpopulationはperforinの発現量からCD27(+)CD28(+)CD45RA(-)→CD27(+)CD28(-)CD45RA(-)→CD27(-)CD28(-)CD45RA(-)の順に分化していくことが推察された。このことはケモカインレセプターである、CCR5,CCR7ダブルポジティブの細胞がこの経路に従って減少していくことによりさらに裏付けられた。CD27(+)CD28(+)CD45RA(-)のメモリー細胞群は、さらにケモカインレセプターの発現により、CCR5(-)CCR7(+), CCR5(+)CCR7(+), CCR5(-)CCR7(-)の3群に分類された。以上の結果により、memoryからmemory/effector CD8(+) T細胞の分化は、下記の図の経路が考えられた。
Katsuhiko Fukada, Yuji Sobao, Hiroko Tomiyama, Shinichi Oka and Masafumi Takiguchi, Functional Expression of the Chemokine Receptor CCR5 on Virus Epitope-Specific Memory and Effector CD8+ T Cells. J. Immunol. 168: 2225-2232, 2002.
ケモカインレセプターCCR5はTh1様のヘルパーCD4(+) T細胞で発現していることから、Th1様の免疫応答に関わる他のT細胞、例えば今のところ部分的にしか特徴がわかっていない抗原特異的CD8(+) T細胞での発現や機能を調べることは重要である。そこでわれわれは、HLA class Iテトラマーで検出されるウイルス特異的CD8(+) T細胞におけるCCR5の発現と機能を解析した。末梢血リンパ球を多重染色後にフローサイトメトリー解析した結果、CCR5はメモリーCD8(+) T細胞(CD28(+)CD45RA(-))やエフェクターCD8(+) T細胞(CD28(-)CD45RA(-)およびCD28(-)CD45RA(+))に発現していないことが明らかになった。その発現は、メモリーCD8(+) T細胞に比べて2種のエフェクターCD8(+) T細胞で明らかに低かった。さらにCD8(+) T細胞でのCCR7とCCR5の発現を解析した結果、メモリーCD8(+) T細胞にはケモカインレセプターの発言方で分けられる3種のサブセット(CCR5(+)CCR7(-) CCR5(+)CCR7(+)およびCCR5(-)CCR7(+))があること、ナイーブCD8(+) T細胞はCCR5(-)CCR7(+),エフェクターCD8(+) T細胞はCCR5(+)CCR7(-)の発現型をもっていることが示された。これらの結果は、メモリーCD8(+) T細胞の分化がCCR5(-)CCR7(+)→CCR5(+)CCR7(+)→CCR5(+)CCR7(-)のサブセット順に進むことを示唆している。一方、CCR5陽性のCD8(+) T細胞は、そのリガンドであるRANTESに反応して効率よく遊走したことからCCR5は抗原特異的なエフェクターCD8(+) T細胞や文化の進んだメモリーCD8+ T細胞が炎症組織や2次リンパ組織へ遊走するのに重要な役割を果たしていることが示唆された。このCCR5の機能は、CCR7がナイーブCD8(+) T細胞やメモリーCD8(+) T細胞の2次リンパ組織への遊走に関与するホーミングレセプターとしての機能をもつのとは対照的である。
Katsuhiko Fukada, Hiroko Tomiyama, Chantapong Wasi, Tomoko Matsuda, Shigeru Kusagawa, Hironori Sato, Shinichi Oka, Yutaka Takebe, and Masafumi Takiguchi, Cytotoxic T Cell Recognition of HIV-1 Cross-Clade and Clade-Specific Epitopes in HIV-1-infected Thais and Japanese. AIDS. 16:701-711, 2002.
HIV-1(ヒト免疫不全ウイルス)特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)エピトープを同定することは、AIDS(後天性ヒト免疫不全症候群)の病原性やワクチン開発などの様々な研究のために重要である。HIV-1 clade B感染者において多数のclade B特異的CTLエピトープが同定されているのとは対照的に、その以外のnon-clade B特異的なCTLエピトープはclade A感染者またはclade C感染者において少数報告されているのみである。われわれは、既知である8種のHLA-A*1101拘束性HIV-1 clade B特異的CTLエピトープを用いて、東南アジアにおいて比較的多いサブタイプであるHIV-1 clade Eで認識されているCTLエピトープを同定することを試みた。まず、clade E 特異的CTLを誘導できるかについてタイのclade E 感染者の末梢血単核球(PBMC)をclade B特異的CTLエピトープに相当するclade Eペプチドで刺激することにより調べた。さらに、CTLエピトープがclade間で共通(cross-clade)またはclade特異的に認識されるかに関してCTLクローンおよびbulk CTLを用いて解析した。Pol蛋白由来の3種のCTLエピトープはHIV-1 clade Aからclade Eのサブタイプ間で共通のシークエンスであり、これらはタイのclade E感染者においてもcross-clade CTLエピトープとして認識されていた。3種のCTLエピトープ領域に相当するclade Bおよびclade Eペプチドは、それぞれ日本のclade B感染者およびタイのclade E感染者においてclade特異的なCTLエピトープとして認識されていた。対照的に、他の2種のclade B特異的CTLエピトープに相当するclade Eペプチドは、clade E特異的CTLを誘導できなかった。HIV-1感染T細胞におけるこれらのCTLエピトープの抗原提示を明らかにするために、3種のcross-clade CTLエピトープおよび3種のclade E特異的CTLエピトープに対するCTLの認識についてHIV-1 clade Eウイルスクローンに感染したCD4(+) CXCR4(+)細胞を用いて観察した。これらを認識するCTLはclade Eウイルスに感染した標的細胞を効率よく傷害したことから、6種のCTLエピトープはclade Eウイルス感染細胞において自然にプロセッシングされ抗原提示されていることが示された。本研究においてわれわれは、HIV-1 clade B特異的CTLエピトープを利用したこの方策がclade E特異的CTLエピトープを効率よく決定するために大変有用であることを示した。
Yuji Sobao, Hiroko Tomiyama, Saburo Nakamura, Hisahiko Sekihara, Katsuaki Tanaka, and Masafumi Takiguchi, Visual demonstration of HCV-specific memory CD8+ T cell expansion in patients with acute hepatitis C. Hepatology. 33:287-294, 2001.
C型肝炎ウイルス(HCV)は感染後、急性肝炎を引き起こし、そのうち50-90%が、ウイルスを排除できないまま慢性化するとされている。慢性C型肝炎患者の末梢血や肝組織に、HCV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が存在することは明らかとなっているが、CTLが存在しながらなぜウイルスを排除できないのか明らかではない。また、HCVを排除しえた急性C型肝炎患者におけるHCV特異的CTLは、慢性C型肝炎患者のそれと量的、質的にどのような相違があるのかも明らかではない。そこで、HCV特異的CTLの解析は従来、その末梢血における頻度が極めて低いことから、数回にもおよぶIn vitroでの抗原刺激と長期培養を必要としたため困難を極めた。そこで、HCV特異的CTLのみに結合する、HAL-class I-peptide-tetrameric complexを作成することにより、極めて少数のHCV特異的CTLの検出を試みた。その結果、慢性C型肝炎患者の末梢血からはCD8陽性細胞中0.05〜0.12%のHCV特異的CTLを検出したが、ウイルスを排除しえた急性C型肝炎患者の末梢血からは、その数倍高い頻度のHCV特異的CTLを検出した。さらに、急性C型肝炎患者の急性期に増加しているHCV特異的CTLは、CD28陽性CD45RA陰性というMemory T細胞とされるCTLであり、そのMemory type CTLは急性肝炎の回復期にはすみやかに減少していた。一方、慢性C型肝炎患者において存在するHCV特異的CTLはそのような特定のphenotypeを示さなかった。以上より、急性C型肝炎の急性期に増加しているHCV特異的CTLはMemory typeであり、ウイルスの排除、抑制に重要な役割を果たしていると考えられた。  

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