主な業績の研究内容
2005-2006年

Naoki Kobayashi, Takaaki Kondo, Hiroshi Takata, Shumpei Yokota, and Masafumi Takiguchi: Functional and phenotypic analysis of human memory CD8+ T cells expressing CXCR3, J. Leukocyte Biol. 80: 320-329, 2006 

CXCR3を高発現しているヒトメモリーCD8+ T細胞の解析

免疫細胞であるCD8+ T細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞を抗原特異的に傷害することが知られているが、抗原提示を受けていない細胞(ナイーブ)から細胞傷害機能を備えた細胞(エフェクター)への分化および標的細胞を殺傷した後も免疫学的記憶として残る長寿の細胞(メモリー)への分化については明らかになっていない部分が多い。これまでの報告で、細胞表面に発現しているCD45、CD27、CD62L、CD28等をマーカーとして用い、CD8+ T細胞をナイーブ、メモリー、エフェクターの集団に分類できることが判明している。また、近年、細胞の遊走に関与する分子であるケモカインレセプターファミリーのうち、CCR7およびCCR5がCD8+ T細胞の分化段階において特有の発現分布を示すことが報告された。一方、ケモカインレセプターCXCR3は1型ヘルパーT 細胞(Th1)における発現が知られているが、CD8+ T細胞における発現とその役割に関しては明らかにされていない部分が多い。そこで、本研究では、分化過程におけるCD8+ T細胞の表現型および機能的な特徴を明らかにするため、ヒト末梢CD8+ T細胞の各分化段階におけるCXCR3の発現について解析をおこなったところ、CD8+ T細胞はCXCR3の発現強度によってCXCR3high、CXCR3lowおよびCXCR3-の3集団に分けられ、CXCR3highの集団はCD27+CD28+CD45RA-のメモリー分画に高頻度で認められた。また、CXCR3highのメモリーCD8+ T細胞の表現型はCCR5-であり、IFN-γのみならず、IL-2の産生能も示したことから、未熟なメモリー細胞である可能性が示唆された。さらに、CXCR3highのCD8+ T細胞は、CXCR3lowのCD8+ T細胞よりも、CXCR3のリガンドであるMigに対して高い遊走能を有していることも明らかになり、CD8+ T細胞におけるCXCR3の発現は末梢でのメモリー細胞の遊走および分化において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

Center for AIDS Research Best Paper Award 2006
Hiroshi Takata
and Masafumi Takiguchi, Three memory subsets of human CD8+ T cells differently expressing 3 cytolytic effector molecules. J Immunol 177: 4330-4340, 2006

3つの細胞傷害性エフェクター分子の発現によって識別される3つのヒトメモリーCD8+ T細胞集団

Perforin(Per)、Granzyme A(GraA)、Granzyme B(GraB)の発現をマルチカラーフローサイトメトリーにより解析したところ、ヒトCD8+ T細胞は5つのエフェクター分子の発現の異なる集団によって構成されていることが分かった。また、このことはヒトCD8+ T細胞がPer-GraA-GraB-? Per-GraA+GraB-? PerlowGraA+GraB-? PerlowGraA+GraB+? PerhighGraA+GraB+と分化してゆくことを示唆している。この3つのエフェクター分子の発現様式を二つのT細胞分化・成熟モデル(CCR7/CD45RAとCD27/CD28/CD45RAの発現によって識別される)において解析してみると、これらの分化・成熟モデルでは部分的にしか機能を反映していないことが分かった。しかし、5つの細胞表面マーカーCCR7/CCR5/CD27/CD28/CD45RA、または三つのエフェクター分子と3つの細胞表面マーカーPer/GraA/GraB/CD27/CD28/CD45RAの発現を指標とすることで、機能的に異なるヒトCD8+ T細胞集団を同定することができると考えられる。CD27+CD28+CD45RA-のCD8+ T細胞では、Per-GraA-GraB-細胞はCCR5-CCR7+サブセットに、Per-/lowGraA+GraB-細胞はCCR5high/lowCCR7-サブセットに主に存在していた。これに対して、PerlowGraA+GraB+細胞はCD27+CD28+CD45RA-のCCR5lowCCR7-サブセットとCD27-/lowCD28+CD45RA-/+のCCR5-/lowCCR7-サブセットの一部に存在していた。さらに、Per-/lowGraA+GraB-/+であるex vivoのEBV特異的CD8+ T細胞が、非常に弱いかほとんど細胞傷害活性を示さなかったことから、これらの細胞はエフェクター細胞ではないと考えられる。以上のことから、CD45RA-サブセット中のPer-GraA-GraB-細胞をcentral memory、Per-/lowGraA+GraB-細胞をearly effector memory、PerlowGraA+GraB+細胞をlate effector memory細胞と分類した。そして、Per-/lowGraA+GraB-細胞はTCRを介した刺激にともなってGranzyme Bを発現したことから、early effector memory細胞がlate effector memory細胞・effector細胞に分化することが示唆された。本研究は、この3つのメモリーサブセットの存在と、それらの分化経路について明らかにした。

Hiroko Tomiyama, Mamoru Fujiwara, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Cutting Edge: Epitope-dependent effect of Nef-mediated HLA class I down-regulation on ability of HIV-1-specific CTLs to suppress HIV-1 replication , J. Immunol 174: 36-40, 2005

Nef蛋白によるHLAクラスI分子の発現低下がHIV-1特異的CTLのHIV-1増殖抑制能に及ぼす影響は、エピトープ依存的である

Nef蛋白によって引き起こされるHIV-1感染細胞表面上のHLAクラスI分子の発現低下は、HIV-1がHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)から逃避するための機序のひとつと考えられている。本研究では、HLAクラスI分子の発現低下が、HIV-1特異的CTLのHIV-1増殖抑制能に及ぼす影響がエピトープ依存的であることを証明した。AIDS発症の遅延との関連が報告されているHLA-B*5101拘束性CTLのうち、Pol由来エピトープに特異的な2種類のHLA-B*5101拘束性CTLは、HIV-1感染CD4+T細胞を効率的に排除し、HIV-1の増殖を抑えることができた。一方、HLA-B*5101拘束性GagとRev由来エピトープに特異的なCTL及び、HLA-A*3303拘束性EnvとGag由来エピトープに特異的なCTLは、HIV-1感染CD4+T細胞を効率的に排除することができず、HIV-1の増殖も部分的に抑制するにとどまった。このようなCTLの抗ウィルス活性の違いは、HIV-1感染CD4+T細胞表面に提示される特異的抗原量の違いによって生じることが示唆された。

Mamoru Fujiwara, Hiroshi Takata, Shinichi Oka, Hiroko Tomiyama, and Masafumi Takiguchi, Patterns of cytokine production in HIV-1-specific human CD8+ T cells after stimulation with HIV-1-infected CD4+ T cells, J. Virol. 79: 12536-12543, 2005
HIV-1にはCTLの認識を免れる逃避機構が備えている。その一つであるNefによるHLAクラスIの発現低下は、HIV-1感染細胞に対するCTLの認識を低下させ、細胞傷害活性に影響を与える。HIV-1特異的CTLは、Nef陽性株NL-432感染CD4+T細胞を殺さないが、NL-423の増殖を部分的に抑制することが報告されている。この部分的な抑制にはサイトカインの関与が考えられる。しかし、HIV-1感染CD4+T細胞を認識した個々のCTLのサイトカイン産生パターンについては報告がなく、その解析は生体内においてHIV-1特異的CD8+T細胞がどのようなサイトカイン産生パターンを示し、HIV-1の増殖抑制に関与するかを明らかにする上で重要である。本研究では、3種類HIV-1特異的CTLについて、HIV-1感染CD4+T細胞を認識した時のサイトカイン産生(IFN-γ、TNF-α、MIP-1β)を解析した。
エピトープペプチドで刺激すると、異なる特異性、及び同じ特異性を持つCTLクローン間で異なったサイトカイン産生パターンを示すが、感染CD4+T細胞で刺激した場合、そのようなサイトカイン産生の不均一性は失われることを見出した。また、個々の細胞を見ると1種類のサイトカインだけを産生しているが、集団として見るとIFN-γ、TNF-α、MIP-1βすべての産生が認められ、多様性を有していることを明らかにした。このような産生するサイトカインの多様性が、NL-432の増殖抑制に有利に働くと考えている。更に、HIV-1陽性患者から分離したHIV-1特異的CD8+T細胞をHIV-1感染CD4+T細胞で刺激すると、大部分のサイトカイン産生細胞は、1種類のサイトカインだけを産生していた。しかし、CTLクローンの結果とは異なり、MIP-1β産生細胞が非常に多く見られた。また、用いたHIV-1特異的CD8+T細胞(メモリー、エフェクター/メモリー細胞)が、同じ特異性を持つCTLクローン(エフェクター細胞)よりも顕著に高いサイトカイン産生を示したから、このような表現型を持つHIV-1特異的CD8+T細胞が生体内におけるサイトカイン産生の重要な担い手ではないかと考えられる。

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