主な業績の研究内容

2017-2018年

Hayato Murakoshi, Madoka Koyanagi, Tomohiro Akahoshi, Takayuki Chikata, Nozomi Kuse, Hiroyuki Gatanaga, Sarah L Rowland-Jones, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Impact of a Single HLA-A*24:02-associated Escape Mutation on the Detrimental Effect of HLA-B*35:01 in HIV-1 Control, EBioMedicine 36:103-112, 2018
 HIV-1感染症では、HLAアリルがHIV-1感染者の病態進行と密接に関わっている。これまでの報告で無治療慢性HIV-1感染者のHLAと血漿中ウイルス量(pVL)の関係について解析した結果、白人、メキシコ人、日本人ではHLA-B*35:01陽性感染者が陰性感染者よりも有意に高いpVLを有しており、HLA-B*35:01がHIV-1感染者の病態進行促進と関連していることが示唆された。しかしながら、B*35:01陽性感染者の病態進行促進メカニズムはいまだに不明である。そこで本研究では、B*35:01陽性感染者に見られるHIV-1増殖抑制能を有した細胞傷害性T細胞(CTL)に着目し、この細胞の免疫反応に及ぼすウイルス変異の影響について解析した。
 63人のB*35:01陽性感染者において16種類のB*35:01拘束性エピトープ特異的CTL反応とpVLの関係について解析した結果、4種類のエピトープに反応している人が反応していない人よりも有意に低いpVLを示し、これら4つのエピトープ特異的CTLがpVLをmedium levelまで抑えていることが明らかとなった。しかしながら、これら4種類のエピトープの内のNefYF9で、日本人の約70%が保有するHLA-A*24:02に拘束されたCTLによって選択された逃避変異(Y135F)の蓄積が確認され、Y135F感染者はwild-type(WT)感染者よりも有意にpVLが高いことが判明した。また、YF9へのT細胞反応が見られたY135F感染者は、YF9への反応を示すWT感染者よりも有意にpVLが高いことが示され、この変異によってHIV-1感染者におけるYF9特異的CTLのHIV-1増殖抑制能が減弱されていることが明らかとなった。さらに、YF9特異的CTL クローンを用いたin vitro解析では、CTLクローンによるY135Fウイルスの増殖抑制能はWTウイルスの増殖抑制能と比べて有意に低いことが認められ、この変異の出現によってYF9特異的CTLのHIV-1増殖抑制能が減弱されることが検証された。
 以上本研究により、HLA-A*24:02拘束性CTLによって選択されたY135F逃避変異がYF9特異的CTLのHIV-1増殖抑制能を低下させるため、B*35:01陽性感染者のpVLが増大してしまうことが判明し、B*35:01陽性感染者の病態進行促進の機序が初めて明らかとなった。
Takayuki Chikata*, Giang Van Tran*, Hayato Murakoshi, Tomohiro Akahoshi, Ying Qi, Vivek Naranbhai, Nozomi Kuse, Yoshiko Tamura, Madoka Koyanagi, Sachiko Sakai, Dung Hoai Nguyen, Dung Thi Nguyen, Ha Thu Nguyen, Trung Vu Nguyen, Shinichi Oka, Maureen P. Martin, Mary Carrington, Keiko Sakai, Kinh Van Nguyen, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), HLA class I-mediated HIV-1 control in Vietnamese infected with HIV-1 subtype A/E, J. Virol. 92:e01749-17, 2018
 HIV-1サブタイプB・C感染地域の欧米・アフリカ・日本では、HLA-B*27、B*57、HLA-B*67やHLA-B*52-C*12ハプロタイプが病態進行遅延とHLA-B*35やB*53が病態進行促進と関連していることがしられている。一方でHIV-1サブタイプA/E感染地域では、B*35:03およびB*51が病態進行遅延と関連しているという報告があるものの、未だ大規模かつ網羅的な解析は行われていない。そこで我々は、サブタイプA/Eを対象としてHLAアリルのHIV感染症の病態進行に対する寄与の解明を試み、さらにHLAアリルに関連するHIV-1アミノ酸変異(HLA-AP)の病態進行への影響を解析した。
 無治療のベトナム人HIV-1サブタイプA/E慢性感染者536名を対象として、HLAアリルタイピングを行い、続いてHLAアリルと感染者のCD4陽性T細胞数(cells/ul)および血中ウイルス量(copies/ml)との関連性をMann-Whitney検定により分析した。さらにHLA-AP(Tran and Chikata et al., AIDS. 2016)の出現数および出現の有無の感染者の病態進行への影響を、それぞれSpearman検定および線形回帰分析により解析した。
 HLAアリルは、それぞれHLA-A:15種、HLA-B:22種、HLA-C:15種が同定された。続いて病態に対する相関分析を行った結果、HLA-C*12:02は感染者の低い血中ウイルス量と、またHLA-A*29:01、B*07:05、C*03:03およびC*15:05が高い血中ウイルス量と有意に相関していた。また、HLA-A*11:01およびC*12:02は高いCD4陽性T細胞数と、HLA-A*02:03、B*07:05およびC*15:05は低いCD4陽性T細胞数と有意に相関していた。一方で、本コホートではHLA-A*29:01、B*07:05およびC*15:05は大きい連鎖不平衡を形成していた。またPol領域のHLA-A*29:01-B*07:05-C*15:05関連HIV-1変異の出現数とCD4値は負の相関関係を示し、血中ウイルス量と正の関係の傾向を示した。Nef173I変異を持つ感染者は有意に高いウイルス量を、Pol272nonI、Pol653A/Tを持つ感染者は有意に低いCD4値を示した。
 本研究の結果により、ベトナム人HIV-1慢性感染者においてHLA-C*12:02がHIV-1感染に対し有利なHLAアリルであり、またHLA-A*29:01-B*07:05-C*15:05ハプロタイプが不利なHLAアリルであることが明らかとなった。また、ハプロタイプに選択される変異により、CTLによるHIV-1のコントールが何らかの影響を受け、その結果悪い病態を示すことが示唆された。
Center for AIDS Research Best Paper Award 2017
Takayuki Chikata
*, Hayato Murakoshi,* Madoka Koyanagi, Kazutaka Honda, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Control of HIV-1 by an HLA-B*52:01-C*12:02 protective haplotype, J. Infect. Dis. 216:1415-1424, 2017
 これまで欧米やアフリカにおける白人や黒人を対象とした研究では、HLA-B*57、B*58、B*27などがエイズ進行遅延に寄与するHLA型として報告され、それらに拘束されるHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)がHIV-1感染を効率よくコントロールしていることが明らかになっている。また、我々は以前の研究(Naruto, et al., 2012, JVI)で、日本で最も多くみられるハプロタイプであるHLA-B*52:01-C*12:02(20%)が、エイズ発症遅延に強く関係していることを明らかにし、さらにHLA-B*52:01拘束性CTLがその機序に関わっていることを明らかにしてきた(Murakoshi, et al., 2015, JVI)。しかしながら、HLA-C*12:02拘束性CTLがHIV-1増殖抑制に関連しているかどうかはまだ明らかとなっていない。そこで、我々はHLA-C*12:02拘束性CTLとHIV-1感染者の血漿中ウイルス量およびCD4陽性T細胞数の関係について解析を行った。
 これまでに報告されたHLA-C*12:02のエピトープは我々が以前報告した2種(Pol KY9、IY11)のみであった(Honda, et al., 2011, Eur J Immunol & Murakoshi, et al., 2017, JVI)。そこではじめに、新規のHLA-C*12:02エピトープを探索した結果、新たに2種の新規HLA-C*12:02エピトープ(Gag TH9、Nef MY9)を同定することに成功した。さらに、合計4種類のうち2種類のエピトープ(IY11、MY9)に対するCTL反応が日本人感染者の低い血漿中ウイルス量および高いCD4陽性T細胞数と有意に相関しており、これら2つのエピトープはimmunodominant epitopeであることを明らかにした。
 さらに、我々が以前同定した4種類のHLA-B*52:01拘束性CTL(Gag MI8、RI8、WV8、SI8)の反応とこれら2種のHLA-C*12:02拘束性反応のbreadthが血漿中ウイルス量と強い負の相関、CD4陽性T細胞数と強い正の相関を示していたことから、HLA-B*52:01拘束性およびHLA-C*12:02拘束性CTLがHIV-1増殖抑制に大きく関与していることが明らかとなった。
 以上の研究により、日本人HIV-1 subtype B感染者集団では、HLA-B*52:01-C*12:02ハプロタイプに拘束されるCTLがHIV-1の増殖を効率よく抑制していることが明らかになり、エイズ発症遅延に寄与していることが示唆された。
Hayato Murakoshi,* Madoka Koyanagi,* Takayuki Chikata, Mohammad Arif Rahman, Nozomi Kuse, Keiko Sakai, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi (*Equal contribution), Accumulation of Pol mutations selected by HLA-B*52:01-C*12:02 protective haplotype-restricted CTLs causes low plasma viral load due to low viral fitness of mutant viruses, J. Virol. 91:e02082-16, 2017
 HLA-B*52:01-C*12:02は日本で最も多く見られるハプロタイプで、protective alleleのHLA-B*57、HLA-B*27がほとんど見られない日本人HIV-1感染者において、エイズ発症遅延に強く関係していることが知られている。以前我々は、日本人コホートでのHLA関連ウイルスゲノム変異の解析を行った結果、HLA-B*52:01陰性感染者において、Pol領域でのHLA-B*52:01関連変異の数と血漿中ウイルス量(pVL)の間に有意な負の相関が示され、これらの変異を持つHIV-1が日本人感染者に蓄積することで、pVLがコントロールされていることが判明した。しかしながら、これらの変異がHLA-B*52:01拘束性CTLによって選択された逃避変異であるかどうか、またこれらの変異によってウイルスの増殖能が下がるかどうかは明らかとなっていない。
 そこで本研究では、これらの変異を含むCTLエピトープの同定を試み、これらの変異がエピトープ特異的CTLによって選択された逃避変異であるか解析を行った。さらに変異ウイルスを作製してウイルスの増殖能を解析した。その結果、Pol領域において2種類の新規HLA-B*52:01拘束性CTLエピトープと1種類の新規HLA-C*12:02拘束性CTLエピトープの同定に成功した。また、エピトープ特異的CTLによって変異ペプチドが全く認識されない、あるいはCTLによる変異ウイルス感染細胞の認識がwild-type感染細胞の認識よりも弱いことが示され、これらの変異はHLA-B*52:01拘束性ならびにHLA-C*12:02拘束性CTLによって選択された逃避変異であることが明らかとなった。さらに、これらの変異を持つウイルスはwild-typeのウイルスよりもin vitroウイルス増殖能が低いことが示された。以上の結果、HLA-B*52:01拘束性ならびにHLA-C*12:02拘束性CTLによって選択されたこれらのPol変異が感染者に蓄積することで、ウイルス増殖能が低下し、pVLがコントロールされていることが明らかとなった。
 本研究は、HLA-B*52:01-C*12:02ハプロタイプとエイズ発症遅延の関係に、これらのPol変異の蓄積によるウイルス増殖能の低下が影響していることを示唆している。


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