主な業績の研究内容 |
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2023-2025年 |
| Takayuki Chikata*, Kimiko Kuroki*, Nozomi Kuse*, Anna E Kliszczak, Wayne Paes, Nanami Tomioka, Robert Parker, Aure Aflalo, Tomohiro Akahoshi, Yu Zhang, Ryoya Yamashita, Ryuma Sakata, Hiroki Kusaka, Yosuke Watanabe, Annalisa Nicastri, Haruki Matsubara, Toyoyuki Ose, Shunsuke Kita, Shinichi Oka, Hiroyuki Gatanaga, Zhansong Lin, Nicola Ternette, Persephone Borrow, Katsumi Maenaka,, Masafumi Takiguchi, (*equal contribution), Molecular basis for selection and inhibition of HIV-1 escape virus by T cells and KIR2DL2+NK cells. Nat Commun. 16: 9796, 2025 |
| NK 細胞と CD8+ T 細胞は、HIV-1の増殖を抑制することが知られており、逃避変異の選択にも関与している。変異ウイルスを認識できるT細胞が誘導できることが一部のT細胞では知られているが、NK細胞では免疫逃避変異を認識できるかは明らかになっていない。我々は以前にKIR2DL2+NK 細胞が、HLA-C*12:02拘束性T細胞により選択されるPol変異を持ったウイルスの認識を高めることを明らかにした(Cell Rep17:2210-2220, 2016)。今回の研究では、この変異の選択に関与するT細胞上のTCRとエピトープ抗原の認識、NK細胞上のKIR2DL2と変異エピトープの認識を分子レベルで明らかにし、さらにこれらのエピトープと変異エピトープペプチドがHIV-1感染細胞で合成され提示されているかを、LC-MS/MS解析により分子レベルで明らかにした。またT細胞による変異ウイルスの選択とKIR2DL2+NK細胞による変異ウイルス感染細胞の認識を、詳細に解析した。本研究により、HLA-C*12:02拘束性T細胞により選択されるPol変異ウイルスは、変異ウイルスの選択後同一個体内でKIR2DL2+NK細胞に認識され、変異ウイルスの増殖が抑制されることが確認された。本研究により、生体内でT細胞とNK細胞が共同して、HIV-1増殖抑制をおこなっていることが分子レベルで解明できた。 |
| Hung The Nguyen*, Takayuki Chikata*, Nozomi Kuse, Yu Zhang, Diep Thi Ngoc Pham, Nga Thi Do, Thanh Cong Nguyen, Ngoc Bich Lung, Hao Thi Minh Bui, Hiroyuki Gatanaga, Giang Van Tran, Binh Thanh Nguyen, Do Van Nguyen, Le Minh Giang, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi (*equal contribution), HIV-1-specific CD8+ T cells with different abilities to recognize HIV-1-infected cells in HIV-1-exposed seronegative individuals. PNAS Nexus 4: pgaf336, 2025 |
| HIV-1-exposed seronegative (HESN) individuals では、HIV-1に感染していないが、HIV-1特異的 CD8+ T細胞が誘導されることが知られている。しかし、誘導されるCD8+T細胞の実体は明らかでない。我々は、370名のベトナム人MSMのHESN (HESN-MSM)で、HIV-1特異的 CD8+ T細胞が実際に誘導されるかを解析した。その結果8名のみにHIV-1特異的 CD8+ T細胞が誘導されることを明らかにした。この内、5種類のHIV-1エピトープに特異的なCD8+ T細胞に関して、ICSアッセイおよびHLAマルチマ―を用いて詳細な解析ができた。3種類のHIV-1特異的 CD8+ T細胞はHIV-1感染細胞を認識できたが、残りの2種類のHIV-1特異的 CD8+ T細胞はHIV-1感染細胞を認識できなかった。HIV-1感染細胞を認識できた2種類のHIV-1特異的 CD8+ T細胞はHIV-1 感染者でも誘導されていたが、もう1種類のHIV-1特異的 CD8+ T細胞は、HIV-1 感染者での誘導は確認できなかった。このように本研究では、HESN-MSM で見られるHIV-1感染細胞には、HIV-1感染細胞を認識できるものとできないものがあることを明らかにした。すなわち、本研究では、HIV-1の感染が成立する前にHIV-1感染細胞を認識できるHIV-1特異的 CD8+ T細胞が体内で誘導できることを示した。これらのT細胞は、HIV-1の感染防御にかかわっている可能性が示唆された。 |
| Hung The Nguyen, Takayuki Chikata, Yu Zhang, Giang Van Tran, Hiroyuki Gatanaga, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Role of HLA-B*58:01-restricted CD8+ T cells in HIV-1 subtype AE infection. J Infect Dis. 231:175-185, 2025 |
| HIV-1サブタイプBおよびC感染者では、HLA-B57/B58はエイズ発症遅延に関与しているが、サブタイプAE感染者ではこれらのHLAアリールが発症遅延に関与している報告はなく、サブタイプ間でなぜエイズ発症遅延に差が出るか不明である。サブタイプBあるいはC
に感染しているHLA-B57/B58陽性者では、Gag特異的CD8T細胞による強いHIV-1増殖抑制が報告されているが、サブタイプAE感染したHLA-B57/B58陽性者では、HIV-1特異的CD8T細胞の同定・解析はされていない。そこで、HLA-B*58:01陽性者でのHIV-1特異的CD8T細胞の解析をおこなった。 サブタイプAEに感染したHLA-B*58:01陽性ベトナム人42名の末梢血単核球(PBMC)を採取した。サブタイプBあるいはCで報告されているHLA-B*58:01エピトープ部位のサブタイプAEシークエンスを持った13種類のペプチドを合成し、それを用いてPBMCを刺激・培養して、特異的なT細胞の誘導を調べた。さらに誘導されたT細胞の機能を解析した。 13種類ペプチドの内、6種類(Gag3種類、Pol1種類、Nef2種類)のペプチドに特異的なCD8T細胞を確認できた。サブタイプB・C感染者の体内でHIV-1増殖抑制に関与していると報告されているGagKF11特異T細胞は検出できなかった。NefNW9を除いた5種類のペプチド特異的T細胞は、HIV-1感染細胞を強く認識した。これらのT細胞を誘導できている人とできていない人の間で、pVLとCD4数との相関を解析したところ、NefKF9特異的T細胞を誘導できている人のみ、低いpVLと高いCD4数と有意な相関がみられた。この事から、サブタイプAE感染したHLA-B*58:01陽性者では、強いHIV-1増殖抑制能を有する Gag特異的CD8T細胞が誘導されず、HLA-B*58:01陽性のサブタイプAE感染者ではこのT細胞の欠如するためHLA-B*58:01がエイズ発症遅延に関与していないと考えられた。 |
| Nozomi Kuse, Osamu Noyori, Naofumi Takahashi, Yu Zhang, Shinya Suzu, and Masafumi Takiguchi, Recognition of HIV-1-infected fibrocytes lacking Nef-mediated HLA-B downregulation by HIV-1-specific T cells. J Virol. 98: e00791-24, 2024 |
| 我々は、単球・マクロファージと線維芽細胞の性質を併せ持つfibrocyteはHIV-1の感染する宿主細胞であることを以前に報告した(J. Immunol. 195:4341-4350, 2015)。しかしこのHIV-1感染細胞が、HIV-1特異的T細胞に認識されるかは明らかでなかった。そこでHIV-1感染fibrocyteに対するHIV-1特異的T細胞の認識能を解析した。 HLA-A*24:02拘束性、HLA-B*52:01拘束性あるいはHLA-C*12:02拘束性の5つのHIV-1エピトープ特異的CD8陽性T細胞は、HIV-1感染fibrocyteに反応して、IFN-γを産生し、さらにCD107aの発現をした。またHIV-1 特異的CD8陽性T細胞はHIV-1感染fibrocyteを効率よく、殺傷できた。HIV-1 Nefを介するHLA-AおよびHLA-Bの発現低下はHIV-1感染CD4陽性T細胞およびHIV-1感染マクロファージに対するT細胞の認識に大きな影響を与えることが知られている。しかしHIV-1感染fibrocyteではNefによる発現低下がHLA-Aでは見られたがHLA-Bでは見られなかった。このことから、HIV-1特異的CD8陽性T細胞は、HIV-1感染fibrocyteをHIV-1感染CD4陽性T細胞やHIV-1感染マクロファージより強く認識できる可能性が示唆された。さらにHIV-1感染FibrocyteはHIV-1特異的HLA-DR拘束性T細胞に認識されたことから、fibrocyteはヘルパーT細胞にHIV-1エピトープを提示できることが示された。これらのことからfibrocyteはHIV-1感染においてT細胞へのHIV-1抗原の提示細胞として機能することが示唆された。本研究において、HIV-1特異的T細胞はHIV-1感染fibrocyteを効果的に認識できることを明らかにした。HIV-1感染症において、fibrocyteはHIV-1特異的T細胞の誘導と維持、HIV-1の排除に重要な役割を果たしていると考えられた。 |
| Nozomi Kuse, Hiroyuki Gatanaga, Yu Zhang, Takayuki Chikata, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, Epitope-dependent effect of long-term cART on maintenance and recovery of HIV-1-specific CD8+ T cells. J. Virol. 97: e01024-23, 2023 |
| HIV-1特異的CD8陽性T細胞は再活性化させたHIV-1潜伏感染細胞の排除に重要であるが、長期多剤併用療法(cART)を受けているHIV-1感染者ではHIV-1特異的T細胞の頻度は減少し、その機能も疲弊したままであると言われている。一方で、治療下でのHIV-1特異的T細胞の解析はオーバーラップペプチドや限られたエピトープでしか行われていないため、その全体像は明らかではない。そこで、長期cARTがHIV-1特異的T細胞の誘導と維持にどのような影響を及ぼすのか明らかにするため、多数のエピトープを用いてcART治療前と長期cART治療下でのHIV-1特異的CD8陽性T細胞の解析を行った。 2年以上cARTを受けているHIV-1感染者90名において、63個のエピトープペプチドに対するT細胞の反応を解析した。長期治療後でも56個のエピトープ特異的T細胞は検出できたが、T細胞の陽性頻度と反応の強さはエピトープ間で大きな違いがあった。またプロテクティブエピトープ特異的T細胞の陽性頻度と反応は、それ以外のエピトープ特異的T細胞よりも高かった。治療前のHIV-1特異的T細胞は多くの患者で検出できたが、cART開始時にAIDSだった患者の50%では検出できなかった。一方でAIDS治療患者は治療によるCD4数の回復が大きいほど治療後のT細胞の陽性頻度が高い傾向があり、cARTによって疲弊していたHIV-1特異的T細胞の増殖能の回復が見られた。このことから治療前にHIV-1特異的T細胞が検出できなかった治療患者でもcARTによる免疫的回復により特異的T細胞の誘導可能になることが示唆された。 本研究により、長期cART治療下でのHIV-1特異的CD8陽性T細胞の維持と誘導は、エピトープ依存的に異なることが明らかになった。プロテクティブエピトープを含め長期cART後に検出できるHIV-1特異的T細胞は、完治療法において有効なエフェクター細胞になりうる可能性が示唆された。 |
| Takayuki Chikata, Hiroyuki Gatanaga, Hung The Nguyen, Daisuke Mizushima, Yu Zhang, Nozomi Kuse, Shinichi Oka, and Masafumi Takiguchi, HIV-1 protective epitope-specific CD8+ T cells in HIV-1-exposed seronegative individuals. iScience 26: 108089, 2023 |
| 感染リスクが高い集団(ハイリスク集団)の中でHIV-1曝露後に感染が成立しない人(HIV-1-exposed seronegative; HESN)がおり、彼らからHIV-1特異的T細胞反応が検出されることがこれまでの研究により明らかになっている。しかしながら、それらHIV-1特異的T細胞を樹立し解析した例は少なく、未だこれらのT細胞による感染防御のメカニズムが明確になっていない。我々は日本人HIV感染ハイリスク集団の日本人MSMを対象として、HIV-1特異的T細胞の誘導を試みた。本研究では、既報の143種類(拘束HLA型:28種類)のHIV-1エピトープを対象として、日本人MSMにおけるHIV-1非感染者200名より分離したPBMCを刺激し、長期間培養することによりHIV-1特異的CTLの誘導を試みた。 その結果、細胞内サイトカイン染色法(ICS assay)によって、200名の検体のうち4名の検体からHLA-B*51:01拘束性Pol TI8エピトープおよび、HLA-A*02:06拘束性Pol SV9エピトープ特異的T細胞を検出することができた。これらのT細胞はHIV-1慢性感染者においてHIV-1の増殖抑制に寄与することが知られているprotective epitope特異的T細胞であった。最後に、HIV-1感染細胞に対するこれらのT細胞の認識能を調べたところ、それぞれの特異的T細胞は明確にHIV-1感染細胞を認識することが確認できた。本研究により、HIV-1の増殖抑制能が高いprotective epitope特異的T細胞が、HIV-1の感染成立阻止にも寄与している可能性が示唆され、新しい予防ワクチンの開発に対して重要な知見を得られた。 |