2001-2003

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Ueno, T., Tomiyama, H., Takiguchi, M. Single T cell receptor-mediated recognition of an identical HIV-derived peptide presented by multiple HLA calss I molecules. J.Immunol. in press.

これまでの研究から、HIV Pol由来のペプチド(IPLTEEAEL)は、ウイルス感染細胞上のHLA-B*3501HLA-B*5101という異なった2つのHLAクラスI分子に提示されることが知られていた。また、この2つのHLA分子に提示された同一のペプチドを特異的に認識する細胞傷害性T細胞(CTL)クローンも樹立されたが、このCTLクローンはT細胞レセプター(TCR)として2つのα鎖と一つのβ鎖を有していたため、このCTLクローンの交叉反応性がどちらか一つのTCRによるものなのか、それぞれ別のTCRによるものなのか不明であった。
本研究ではまずこの点を明らかにするために、TCRのα鎖およびβ鎖遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて個々にTCRが欠損したマウスT細胞ハイブリドーマに導入した。その結果、Vα12.1Vβ5.6を導入した細胞では、ペプチド特異的な応答が認められたことから、CTLクローンで見られた交叉反応性は単一のTCRによるものであることが明らかとなった。さらに興味深いことに、このVα12.1/Vβ5.6 TCRは、非自己のHLA分子であるHLA-B*5301あるいはHLA-B*0702に提示された同一のペプチドも認識した。T細胞が示す免疫応答の感度は、ペプチドがどのHLA分子に提示されているかによって異なるが、その違いはHLA分子とペプチドとの結合活性と非常によく相関することから、Vα12.1/Vβ5.6 TCRは試みたどのペプチド・HLA複合体に対してもほぼ同様の結合活性を有すると示唆された。さらに、HLA-B*3501, HLA-B*5101, HLA-B*5301, HLA-B*0702を発現するターゲット細胞にペプチドをパルスすると、もとのCTLクローンは顕著な細胞傷害性を示したことから、このVα12.1/Vβ5.6 TCRが複数の異なったHLAクラスI分子に提示された同一ペプチドを特異的に認識することが明らかとなった。このようにHIV由来の抗原に強い特異性を持つ一方で、それを提示するHLAクラスI分子(HLAの拘束性)には寛容なTCRは、HIV感染に対する新たな免疫療法の可能性を示唆している。

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