Gordon Research Conference on Immunochemistry and Immunobiology
August 7-12, 2005、Queen’s College, Oxford, United Kingdom

学会内容紹介
この学会で発表されていた研究のレベルは極めて高く、私も聞いていて興奮したのを覚えています。それもそのはず、帰国してから発表されていた研究が次々とNatureやNature immunologyに掲載されました。
主なものを簡単に紹介したいと思います。
 
まずは米国エモリー大学のRafi Ahmed先生のグループによるもので、今ではトレンドになっているCD8+ T 細胞におけるPD-1に関する研究の火付け役ともなった研究です。2005年4月号のNatureに掲載されました(Nature 439: 682, 2006.)。
この研究では、まずモデルとしてマウスにLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)を慢性感染させ、慢性感染時に生じるウイルス特異的CD8+ T細胞と機能的なメモリーCD8+ T細胞の遺伝子の発現の差異をDNA microarrayで網羅的に解析しています。その結果、慢性感染時に生じるCD8+ T細胞には抑制性受容体であるPD-1が恒常的に発現していることが分かりました。さらにPD-1による抑制性のシグナルを抗体でBlockすると、T細胞の応答性が改善したことを報告しています。
この論文の発表後も研究は進められ、最近ヒトのHIV感染症においてもHIV特異的CD8+ T細胞にPD-1が発現することがその機能不全の原因の一つになっているという報告が複数のグループによって行われ(Nature 443: 350, 2006. Nat. Med. 2: 1198, 2006. J. Exp. Med. 203: 2281, 2006.)、現在このCD8+ T細胞におけるPD-1の機能解析に熱い視線が向けられています。
   

もう一つは、米国ペンシルバニア大学のSteven L Reiner先生のグループによる、CD8+ T細胞分化・成熟における、転写因子T-betとEOMESの働きについての発表でした。2005年12月号のNature immunologyに掲載されました(Nat. Immunol. 6: 1236, 2005.)。
彼らは以前に発表した論文(Science 302: 1041, 2003.)で、CD8+ T細胞においてEOMES(Eomesodermin)がT-betと同様にエフェクター分子であるIFN-g, Perforin, Granzyme Bの発現において重要な役割を果たしていることを示していました。この論文ではさらに研究を進め、これらT-bet・EOMESがエフェクターCD8+ T細胞の形成だけでなく、メモリーCD8+ T細胞でもIL-15の受容体であるCD122の発現を誘導することで、メモリーCD8+ T細胞の維持において重要な役割を果たしていることが示されました。
CD4+ T細胞における細胞の運命を決定づける転写因子は明らかになりつつありますが、CD8+ T細胞においてはほとんど明らかになっていません。今後、エフェクターおよびメモリーCD8+ T細胞への分化を決定づける分子メカニズムのさらなる解明が期待されています。

   

発表ポスター
   
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