Keystone Symposia
HIV Vaccine: From Basic Research to Clinical Trials and Molecular and Cellular Determinant of HIV Pathogenesis
  印象に残った発表内容

1. Elite control of HIV infection: Implications for Vaccine Design Bruce D Walker

HIV-1に関する研究を行っている研究者なら誰もが一度は名前を耳にしたことがあり、論文に目が通したことがある有名な先生です。聞き手を惹きつけるプレゼンテーションには“さすが!”と感じました。今回の発表には、目新しいものはほとんどありませんでしたが、今後の有効なワクチン開発の指針を示した内容でした。
様々な動物モデルを用いた研究から、ヒトに対して有効かつ実現可能なワクチンは感染阻止よりも病態進行阻止を目指したワクチンであると発表していました。ワクチン開発の目的には、感染者を救うことと同時にHIV-1の流行を阻止することがあります。この2つを同時に達成するためにHIV-1感染後も長期間にわたってウイルス量を2000コピー/mlに抑えることができるワクチンの開発を目指す必要があると提案していました。これは、ウイルス量が2000コピー/ml以下の感染者では、エイズを発症するリスクが少なく、他者に新たに感染させるリスクも低いという統計学的なデータに基づいています。しかし、どうすればウイルス量を2000コピー/ml以下に抑えるワクチンを開発することができるのか目処が立っていないのが現状です。

そこで、Bruce D WalkerらはElite controllers(抗HIV-1治療を行わずに非常に長期にわたってウイルス量が検出限界以下)、Viremic controller(抗HIV-1治療を行わずに非常に長期にわたってウイルス量が50〜2000コピー/ml)とChronic progressors(ウイルス量が2000コピー/ml以上)の3群で以下の項目を詳細に解析し比較しました。
● 宿主の遺伝的因子 (eg. HLAハプロタイプ、CC5Δ32)
●ウイルス側の因子 (eg. シークエンス、Nef欠損の有無、複製能)
● CD8T細胞応答 (eg. 応答するCD8T細胞の量と多様性)
● CD4T細胞の多機能性 (eg. IFN-γとIL-2産生細胞頻度、CTLA4やPD-1の発現)
● 中和抗体 (eg. 分離ウイルスに対する反応性)
● 急性期及び慢性期における腸管粘膜でのCD4T細胞の減少

結論から言って、どの因子がエイズの発症や病態の進行阻止に重要であるのかはっきりしませんでした。しかし、今後の有効なワクチンの開発を目指したHIV-1の病態研究は、大規模なコホート研究や免疫不全を引き起こさない動物モデルでの研究が中心となって進んでいくことは間違いありません。


2. Significant inhibition of HIV-1 replication by KIR3DS1+ NK cells derived from KIR3DS1+/HLA-BW4 80I+ individuals. Galit Alter, Mary Carrington, and Marcus Altfeld

2002年のNature GeneticsにKIR3DS1(NK細胞レセプターのうち、活性化に働くkiller immunoglobulin-like receptor [KIR] アリル)とHLA-Bw4のうち80番目のアミノ酸がイソロイシンであるアリル(HLA-Bw4 80Ile)を持っているHIV-1感染者では、そうでない感染者よりも病態の進行が遅いことを統計学的な解析から報告した論文が掲載されました。今回の発表では、現象論にすぎなかった上記の内容を試験管内の実験を用いて、KIR3DS1陽性NK細胞がHLA-Bw4 80Ile陽性CD4T細胞に感染したHIV-1の増殖を有意に抑制することを初めて明らかにしました。

私たちが行っている実験と非常によく似た実験系で解析を行っていたので興味を持ちました。しかし、それ以上に今後も大規模なコホート研究を通してHIV-1の制御に関わる新規の因子が見つかってくるであろうと期待させられる一題でした。

 
 
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