I-1.HIV-1特異的CTLエピトープの同定の研究 |
CTLによるHIV-1感染細胞の排除、あるいはHIV-1のCTLからの逃避機構の研究には、HIV-1特異的CTLが認識するHIV-1ペプチド(エピトープ)を明らかにすることが必須である。これらのエピトープは、多様性に富んだHLAクラスI抗原により提示されるため、それぞれのHLAクラスI抗原が提示するエピトープを明らかにする必要がある。また、この多様性は人種間で異なっており、欧米人、黒人、アジア人の間では大きく違っているため、例えば欧米人で明らかになったHLA抗原によって提示されたエピトープが、アジア人では研究に使えないことも多い。また、HIV-1はサブタイプ間での変異性が著しいため、例えばサブタイプBのエピトープがサブタイプEの解析で使えないことも多い。そのため、各サブタイプ別にエピトープを解析しなければならない。 以上の状況下で、我々はリバース・イムノジェネティックス法という方法を用いて、HIV-1エピトープの同定が可能であることを以前に明らかにした(AIDS
10: 1075-1083, 1996)。この方法を用いて、現在までに、多数のHLAクラスI分子結合HIV-1ペプチドを明らかにし(Immunogenetics
45:259-265, 1997, Immunogenetics 46:245-248, 1997, Immunogenetics 48:350-353,
1998, Tissue Antigens 52:501-509, 1998, Immunogenetics 49:819-822, 1999,
Tissue Antigens 54:325-332, 1999, Tissue Antigens 55:296-302, 2000 ,
[Abstract]
Tissue Antigens. 56:501-506, 2000)、さらにアジア人に高頻度に見られるHLA-A*1101, -A*2402,
-A*3303, -B*3501, -B*5101の5種類のHLA抗原が提示するHIV-1サブタイプBのエピトープを33種類を同定した(図1)(J.
Immunol. 158:5026-5034, 1994, J. Immunol. 159:6242-6252, 1997, AIDS.
12:2073-2074, 1998, Hum. Immunol. 60:177-186, 1999., AIDS. 13:861-863,
1999, AIDS. 13:1413-1414, 1999, AIDS. 13:2597-2599, 1999, AIDS. 15:2199-2201,
2001.)。これらのエピトープは、HIV Immunology database at the Los Alamos National
Laboratoriesに登録されており、すでに国内外の多くの研究者によって、HIV-1の研究に使われている。 日本や欧米では、サブタイプBの流行が多数あるが、最大の感染者がいるアフリカや、急速に流行が広がっているアジアではサブタイプA, CおよびEが主に流行しており、これらのサブタイプのエピトープ解析が世界的なレベルで考えた場合重要である。特に、東南アジア、中国ではサブタイプEとCの流行が主体であり、また最近日本でも異性間感染の約半数がサブタイプEとなっており、サブタイプEのエピトープ解析が急務である。我々は、サブタイプEに対するエピトープを同定するために、すでに明らかになっているサブタイプBのエピトープを用いて同定する方法を確立した(AIDS . 16:701-711, 2002.)。これは、HLA-A*1101の8種類のエピトープ部位にあたるサブタイプEのアミノ酸シークエンスを調べ、その部位のペプチドを作製して、これを用いてエピトープになっているかを解析するものである。この解析により、サブタイプB, E間で共通に認識される3種類のエピトープと、サブタイプB, Eそれぞれ特異的なシークエンスの3種類のエピトープを同定できた。この方法は、すでに明らかになっている他のサブタイプのエピトープを用いて、新たなサブタイプのエピトープを同定する有効な方法と考えられる。 |