I-2.Nef蛋白によるHLAクラスI抗原の細胞表面発現の低下がHIV-1特異的CTLからの逃避に及ぼす効果の研究

Nef蛋白によるHLA-A,B抗原の細胞表面からのdownregulationはよく知られており、またこれによりCTLへの抗原提示がされないため、HIV-1感染細胞がCTLによる細胞傷害を免れることが報告されている。
しかしながら、HIV-1感染者では多数のCTLが急性期、慢性期ともに見られることから、CTLがHLAクラスI抗原によって提示される抗原を認識していると考えられる。そこで、Nef蛋白によりHLA-A,B抗原downregulationが、T細胞の認識に及ぼす影響を、HIV-1特異的CTLクローンを用いて解析した。Wild typeのNefを持ったHIV-1と、Nefが欠損したあるいはHLA-A,B抗原のdownregulationを起こさない変異Nefを持ったHIV-1を感染させたCD4T細胞を用いて解析したところ、NefによるHLAクラスIのdownregulationの結果、CTLは細胞傷害活性を示さないが、サイトカイン産生はやや減少するも十分な産生を示す事が明らかになった。このことからCD8T細胞は、HIV-1感染細胞上のHLAクラスI分子によって提示されるHIV-1エピトープを認識していること、さらにHIV-1の部分的増殖抑制には、CTLによるHIV-1感染細胞の細胞傷害活性によるものよりは、むしろサイトカイン産生によるものが大きい可能性が示唆された(J. Virol. 76:7535-7543, 2002)。このことは、HIV-1感染患者において、HIV-1特異的CTLが多数見られるが、HIV-1の増殖が完全に抑えられないことを説明している。

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