V-1.HIV-1を認識するT細胞レセプター(TCR)の解析

TCRによるMHC抗原に提示されるエピトープの認識の研究は、結晶のX線解析も進み、3次元レベルの構造からも明らかになりつつある。しかし、変異性の高いHIV-1に対する認識を、T細胞がどのようにTCRを使って行うのか、またHIV-1はどのようにしてこれらのTCRからの認識をすり抜けていくのかを明らかにするには、個体レベルと分子レベルを組み合わせた仕事を行う必要があると考えられる。しかしながら、このような研究はされていない。我々は、個体レベルと分子レベルでのTCRの解析を行うために、まずTCRを分子レベルで研究する方法を確立する事からはじめた。


HLA-B*3501とHLA-B*5101の両方の抗原が提示することができるHIV-1エピトープを認識できるCTLクローンを作製した。このCTLクローンのTCRを調べた所、二つのVα(Vα10.1, Vα12.1)と一つのVβ(Vβ5.6)を持っている事が明らかになった(Eur. J.Immnol. 30:2521-2530, 2000)。そこで、これらの異なったHLA抗原が異なったTCRによって認識されるのか、それとも一つのTCRによって異なったHLA分子で提示されるHIV-1エピトープが認識されるのかを明らかにするために、CTLクローンからTCRのクローニングを行い、二つのVαVβ遺伝子をマウスレトロウイルスに組み込み、それをマウスのT細胞で発現させる方法を試みた。その結果、Vα12.1 Vβ5.6を組み込んだマウスレトロウイルスで感染させた細胞では、TCRの発現が見られ、その発現T細胞は、両方のHLA分子で提示されるエピトープを認識して、IL-2を産生した。このことから、一つのTCRが、異なった二つのHLA分子で提示されるエピトープを認識する事が明らかになった( J. Immunol. 169:4961-4969, 2002 )。
 

ヒトのTCRをT細胞に発現させ、その特異性を調べる方法は、まだ限られた研究グループでしか成功しておらず、この方法が確立した事により、我々はTCRによるHIV-1の認識を個体及び分子レベルで行う事が可能となった。

戻る