本学およびアジア地域における感染症研究教育の「ハブ」として、部局の壁を超えて感染症にかかわる研究者が集約、連携する場を形成することで、感染症研究の集学的な展開と研究力のさらなる強化を図る。合わせて、感染症を専門とする次世代人材の育成の場としての役割を果たすことを目的とする。
2019年間末に中国の武漢で最初の患者が報告されて以降、新型コロナウイルス感染症は全世界に流行するパンデミックとなった。感染症の制御は途上国問題ではなく、我が国のような先進国においても国家の安全保障にかかわる問題と捉えなおされることとなった(「ワクチン開発・生産体制強化戦略」令和3年6月1日 閣議決定)。そして、平時における感染症研究の推進、特に先進的な研究機関との国際連携、世代やジェンダーを超えた多様な人材、産学連携の促進の重要性が我が国の喫緊の課題と認識されるに至った。
ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパスは、社会的要請を踏まえ、新型コロナウイルス研究にいち早く取り組み、他研究機関や学内の感染症研究者との共同研究を中心に、新型コロナウイルス変異株に有効なモノクローナル抗体の取得(Cell Rep 2021)、CTL逃避変異を世界で初めて報告(Cell Host Microb 2021)、デルタ株(Nature 2021)及びオミクロン株(Nature 2022)の病原性やウイルス学的性質を明らかにするなど、インパクトの高い多くの研究成果を発信してきた。このように世界に伍する研究を持続的、かつ一層発展させるためには、部局の壁を超えて感染症にかかわる研究者が集約、連携し、感染症研究を集学的に展開するハブが必要である。本センター熊本大学キャンパスには、高病原性の病原体(BSL3)や感染動物モデル研究(BSL3)を取り扱う施設・設備等の研究環境が整備されており、本学における感染症研究のハブとして適している。
加えて、本センターの教員が主導することで、大学院医学教育部に感染症の教育・研究に特化した教育コース(感染症およびエイズの克服を目指した先端研究者育成コース)を2019年度に新設するなど、大学院教育を通じて感染症を専門とする次世代人材の育成を加速する土台を構築してきた。本コースを主体とする博士課程教育プログラムは、2期連続(2019-2021, 2022-2024)で「国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム」に採択されるなど、大学院教育の国際化にも大きく貢献している。
また、国際的な活動という視点では、本センターは前身の一つである本学エイズ学研究センターの頃より「エイズ制圧を目指した国際教育研究拠点」(グローバルCOEプログラム(平成20-24年度)、国際先端研究拠点(平成25-令和3))を通じて、海外の先進的な研究機関(オックスフォード大学など)とクロスアポイントやリエゾンラボ設置を通じた実質的な連携を継続的に展開するとともに、ハーバード大学やカリフォルニア大学などから客員教授を招くなど国際共同研究を広く進めている。また、途上国との連携においては、本学タンザニアオフィスの新設と運営を本センターの教員が主導するなど、感染症研究を国際的に推進する人的ネットワークや機関連携の基盤も確立している。
こうしたことから、本センター熊本大学キャンパスに部局の壁を超えて感染症にかかわる研究者が集約、連携するハブとなる新たな組織を設置することで、本学の強みの一つである感染症研究領域で、研究力の持続的な強化を推進し、国際的な認知度の向上を図る。