ヒト免疫不全ウイルスHIV感染者は、世界に数千万の感染者が存在し3大感染症の1つに数えられるウイルス感染症です。感染者は抗ウイルス薬の治療を受けなければエイズという致死的な状態に陥ります。レトロウイルスであるこのウイルスは、ひとたび感染してしまうと感染者体内からウイルスを排除する事は極めて難しく生涯にわたって抗ウイルス薬を服用し続ける必要があります。治療によりエイズの発症を阻止できる一方で、現在も増え続ける医療費の問題や感染者自身の慢性感染状態におけるエイズ以外の様々な健康問題などが生じており、ウイルスの根治療法の確立が切望されております。
ヒト T細胞白血病ウイルスHTLV-1は感染細胞の癌である成人T細胞白血病を引き起こす病原性を持つレトロウィルスとして知られています。このウイルスは九州沖縄を中心に日本に感染者が多いウイルス感染症であり、これまで熊本大学を含め日本の研究者がこの分野の研究を先導してきました。このヒトT細胞白血病ウイルスも感染者体内からウイルスを排除することが極めて難しく、またひとたび成人T細胞白血病を発症すると難治性であることから、早急に対策が必要なウイルス感染症です。
世界的な流行を示している新型コロナウィルス研究にも力を入れています。レトロウイルス研究で培った、ゲノミクスの技術を活用することで、地域の自治体と連携して変異ウイルスのモニタリングに貢献しています。これまでに自治体からの予算提供を受けずに、数百の検体の全ウイルスゲノム解析を完了させその結果を報告しています。全ゲノムシークエンスは手間とコストがかかる検査法なので、それに代わる新規変異ウイルスモニタリング法の開発研究にも力を入れています。
このように私たちの研究室では人類を脅かす様々なウイルス感染症に対しその病原性発現メカニズムやウィルス排除を難しくしている原因あるいはそれらウイルスに関する新しい診断法の確立などを通じてこれら難治性ウイルス感染症の克服に貢献するために日々研究に励んでいます。
当研究室が取り組んでいる研究手法について紹介をします。研究室の名前が“ゲノミクス、トランスクリプトミクス”となっています。これは日本語で言うとゲノム科学あるいは転写科学と言うことになり、DNAやRNAを調べる事によってウイルス感染症の病原性メカニズム解明や新規診断法の確立を行うという意図で命名しました。
つまり前述した難治性ウイルスが感染した細胞、あるいは感染者検体を研究試料として、その中に存在するDNAやRNAを調べることが主な研究手法になります。DNAは私たちのような生物において、生命活動を行うための基本的な遺伝情報が書き込まれている大切な分子です。ウイルスも遺伝情報を書きこむものとしてDNAやRNAなどを使っています。
当研究室ではそのウイルスのDNAやRNAを先端的な研究アプローチで高精度に解析を行うことにより従来の研究手法では特定できなかった新しいブレイクスルーとなる研究成果を創出してきています。
先端的研究手法である、次世代シークエンスやシングルセル解析、バイオインフォーマティクスを積極的に取り入れており、それに必要な研究設備も完備しています。
もう一つの研究室の特徴は国際的に活躍する次世代研究者の育成に力を入れているところです。ヒトレトロウイルス学共同研究センターは、熊本大学医学教育部に所属しており、修士課程、博士課程の大学院教育を行っています。現在の研究室には多様な出身国あるいは多様な専門分野の意欲的な若手研究者が大学院生や研究員として参加しています。研究室内でのミーティングは英語で行っており、国際誌への論文執筆や国際会議での研究発表やディスカッションに充分対応できるような経験と知識、能力を習得してもらうことを心がけています。また、旅費支援、学会参加費支援を行うことによって経済的な負担を気にすることなく、積極的に国際的な発表の舞台に挑戦してもらうようにしています。
上述した、先端的医学生命科学研究手法に大学院生時代から積極的に関わることによって、それに習熟することが可能となり、次世代研究を牽引する次世代研究リーダーの育成を研究室全体でサポートしています。
当研究室の特徴として、異分野融合研究を推進している点があります。当HPに記載されているように国内、国外の様々な研究者と連携して共同研究を推進しています。近年の解析技術の高度化、多様化によって、国際的に評価の高い研究雑誌に論文を受理されるには、論文内容を多角的に検証するための多くの実験データを揃えることが求められますが、個々の研究室でそのすべてを網羅することは困難です。その状況を打開するために、研究着想から基盤データが取得された段階になると、研究をより進展、発展させるために、積極的に他分野の研究者とディスカッションや共同研究を展開しています。その結果、ブレイクスルーとなる社会的にも重要な研究成果にまで、研究の質を高めることを心がけています。
またその異分野融合研究の機会は、今後の新しい研究領域を創造する上においても重要なポイントと言われており、所属する若手研究者及び共同研究先の若手の研究者の交流を奨励することによって次世代の研究ネットワーク形成にもつながることが期待されます。これまでも国内国際共同研究課題の研究費にも積極的に申請し、採択を受けてその活動を実現してきました。
このような私たちの研究活動に共感する、新進気鋭の若手研究者の参画を楽しみにしています。